第9話 エピローグ
「ケイ! パトロールの時間ですわよ、早くおいでなさいな!」
「いーまーいーくーよっ」
明るい表通りから大声で呼ばれて、ケイはアパートの窓を跳ね開け、やけっぱちな返事を返す。
子どもの呼び出し方か、と突っ込みたかったが、迎えが来ないと家も出られないこっちのほうが分が悪い。
開けた窓から、秋晴れの空の青さと涼しい風が流れ込んでくる。
「ん……しゅっきん……?」
ブーツの靴紐を締めていたら、ベッドの方から寝とぼけた声が上がった。ケイは、テーブルの上の『トムとジェリー』のビデオテープをどけて、水差しとコップを置く。レモン水を注ぎながら、ベッドの方には穏やかな声を返した。
「そっち非番でしょ、寝てなよ」
んー、とベッドから、生返事とともにいってらっしゃいのバイバイが見えた。
笑いながら、アパートのドアを出る。軋む木の廊下を軽い足取りで通りすぎて、階段を降りる頃にはもう足は走りだしてる。なにせ、下で待っているシラネがイライラしていることは間違いない。
でもまぁパトロール中の昼ごはんはカレーにしようかな、と思う。屋台のおばちゃんの味がそろそろ懐かしい。三日前に行ったけど。
階下に停めっぱなしの愛機に飛び乗って、隣のよく似た白いヴィークルの主に軽く手を上げる。
「ハイ、シラネ」
「ケイ、アズが昨日から戻らないんですけど」
「いいじゃん。いい加減、アズの所在把握したい病治せば?」
「病気じゃありません。趣味ですわ」
わぁおと呟いて、ちらりと二階の自分の部屋を見上げる。そこに穏やかに息づく、優しい眠りのことを思う。生きてるってけっこう素晴らしいな、とヴィークルのアクセルを蹴っ飛ばす。
(ああ、あたしの、生きる歓び)
カレー食べて、ヴィークル乗り回して、湧いて出る黴やっつけて生きていく。
愛と勇気ならあたしのベッドで寝てるよ。
カレーガール、ヒーローズ! @yukitorii
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