『ハリー・ポッター』シリーズが日本の書店で販売されたとき、かつてトールキンや『ナルニア国物語』を楽しんだであろう大人たちはどんな気持ちだったのだろう。きっとちいさな頃、それこそ作中の言葉を借りれば“童心”がはじけて、胸の中にふたたび魔法のきらめきがよみがえるのを感じたのではなかろうか。現にわたしは、大人になったはずの今、この作品を読んでふたたび、言葉や、物語の持つ魔力に魅せられている。
ステファン・ペリエリはふしぎな力を持つ男の子。厳格な母はふしぎな力を認めず、さらには突然いなくなってしまった父との離婚は秒読み。そんなお先真っ暗なステファンの目の前に、ある日、本物の魔法使いがやってきた――。
物語はステファンが魔法使い・オーリローリの弟子となったことからはじまる。
オーリと契約している守護者であり、竜人の生き残り・エレインや、料理上手だけど普通の人間のマーシャ。
他にももちろんさまざまな登場人物が出てくるにもかかわらず、誰ひとりとして他に負けることなくその魅力を発揮し、ステファンが彼らを好ましく思う頃には、読んでいるわたしはもう彼らが大好きになっていた。
それはひとえに、キャラクターに息を吹き込む作者の筆致がなせること。
こういった心温まるファンタジーで技巧についてくどくど触れるのは野暮だとは思うけれど、とにかく言葉ひとつひとつに力があるのがこの作品の魅力のひとつでもある。洋画や、それこそ翻訳された海外の児童文学の言い回しは日本人には相当難しく、真似ようと思っても意味のないものになりがちだ。
作中にて“語り部”の存在が出てくるが、読んでいるわたしからすると、この作者自体がとても優秀な語り部だ。キャラクターに、物語に、そして言葉に息を吹き込む魔法使い。
また、何よりこの作品は、魔法や竜人などわたしたちの世界にはないもの(もしくは、想像上のものとされているもの)を取り上げてはいるものの、一貫して語られているのは家族の話だ。それはちいさなひとつの家族であったり、おおきな、種としての家族であったりする。それから、たぶん、わたしたちが忘れてはいけないこと。いつまでも持っておきたい気持ち。
わたしは元から児童文学のたぐいが大好きだから、この小説がお気に入りになるのは自然なことだとも思う。きっと児童文学や魔法と聞いて「おっ」と腰が上がるひとなら、出逢えた喜びに満たされるだろう。
けれど、それだけじゃない。この世に魔法なんかない、と思うひとにだって読んでほしい。
だってきっと、読めば分かるはずだ。
言葉や、この小説の魔法に魅せられたのなら、「この世界には魔法だってあるんだろう」、そう思えるはずだから。
(だから頼みます…書籍化を…書籍化をお願いします…児童文学系版元のみなさん…お願いします…)
十歳のステファンは、気弱な少年だ。普通の人には見えないものを見てしまう彼は、学校ではいじめられ、家では厳格な母に叱られる毎日だった。二年前にいなくなった父の行方も分からない。
窮屈な日々を送っていた少年の許へ、ある日、銀髪の魔法使いがやって来た。父の親友だという彼オーリローリ・ガルバイヤン(オーリ)は、「ものの本質をみる」ステファンの能力を見出す。彼に弟子入りしたステファンの、魔法修行が始まる。
魔法使いオーリに翼竜アトラス、竜人エレイン、妖精、王者の樹、書庫の魔物など、さまざまな異界の生物やアイテムが登場します。十歳の少年の目を通して、それらが丁寧に語られていきます。両親の確執、母の苦悩、師と竜人の恋、人間と竜人たちの暗い過去も……。
周囲の人々との関わりを通じて、ステファンが成長していくさまがよく理解出来ました。オーリとエレイン、人間の社会も変化していきます。
複雑に絡み合った謎と人間関係が、最後に解けていく結末には、清々しさを覚えました。
イギリス児童文学風なファンタジー小説がお好きな方は、きっとお気に召すと思います。
伝統的な英国ファンタジーの趣きのある作品。
引っ込み思案で空想がちな10歳の少年ステファンは、毎日母親に叱られ、友達もおらず寂しい日々を送っていた。
そんなある日、画家で魔法使いだという青年がやって来る。二年前に失踪した父親の友人だというが……。
ドラゴンや竜人、魔女、魔法使い、精霊やゴーレム、カラスやフクロウの郵便屋さん。
人間世界に混じるように、彼らは存在するのだが、一般には否定され、迫害されている。
ステファンはもちろんのこと、彼を取り巻くキャラクターも個性豊かで面白い。
師匠のオーリと竜人の娘エレインの不器用な恋やステファンの母が抱える悲しい過去、一見冷たそうでいて愛情深い魔女たちやいやらしい悪役もそろっている。
丁寧で読みやすい文章で描かれる世界は懐かしく温かい雰囲気に溢れている。
たとえシリアスな場面であっても、それは変わらない。
幼くもなければ、大人でもなく、あくまで子供の立ち場から物事を純粋に考え、ひたむきで少し泣き虫なステファンによって、周りの大人たちも変わっていく。童心を持ち続けることが魔法を使うには必要なのかもしれない。
そここに散りばめられたユーモアのある描写にクスリとさせられながら、異種の対する偏見や差別についても考えさせられる。
子供から大人まで楽しめる、安定感抜群の作品です。
魔法の素質を持ちながらも、平凡に暮らす10歳の少年ステファンが、
ある日突然現れた魔法使いに連れ出され、
彼の弟子となり、魔法の修行を始めるーー。
ハリーポッターシリーズやゲド戦記など、子供の頃に読んだ海外の児童文学を思い起こさせる、
本格的なファンタジー小説です。
まるで絵を描くように丁寧な情景描写によって、
レトロな雰囲気も森の中にいるような優しい空気感が、
物語に息づいています。
また、キャラクターの造形も非常に丁寧です。
一人一人が生き生きと、そして親が子を思う心、子が親を思う心、ずっとそばにいる大切な人を思う気持ちなど、関係性が上手く描かれている。
そんなふうに感じました。
読み進めるほどに、キャラクターへの理解が深まり、一人の人間として、竜として、竜人として、愛着が湧いてきます。
現在、物語は佳境を迎え、ステファンの両親の過去と謎や、竜人と人間の関係など、シリアスに深まっています。
しかし、子供を見守るような優しく愛情に溢れたお話の雰囲気は、常に一貫しており素晴らしいです。
本文中に国名は明記されておりませんが、私は個人的にケルト音楽を流しながら夜寝る前に読むのをおすすめしたいです。
あなたもこの古き良き魔法の世界にどっぷり浸かってみてはいかがでしょう。