第7話

 天下十剣。

 言葉として生まれたのは、遥か東の帝国、ミングオだ。

 武によって立ち、武によって興ったこの国は、皇帝による統治が成って幾百年、平和な時代にあっても、武を重んじる地であることは変わらない。

 長い歴史の中で戦と共に育まれた武は、家ごとに、また流派ごとに細分化し、深化し、それを担う英雄豪傑の物語に人々は憧れ、巷間をにぎわせた。

 そして、その英雄たちの中でも尋常ならざる強さを秘めた達人が、いつの間にか天下十剣と呼ばれるようになった。

 時代と共にその顔触れは変化したものの、語られる中身はほとんど変わらない。

 天下十剣、百人同力、千人を打ち、万軍を破る。


 ウルドリヒ・アルマ・ニウルスが若くしてその軍才を花開かせ、「東征」と称して進軍したのは、三十年以上前。

 思慮深く、闊達で、大きな野心を持つニウルスは、周辺諸国との同盟、併呑を繰り返しながら凄まじい勢いで王国を広げ、国境の東南が、超大国ミングオとの緩衝地帯に接したのは、彼が三十歳を少し超えたころだった。

 『背骨』と呼ばれる長大な山脈を隔てて、王国とミングオは分かたれていたが、山脈がわずかに開いた南の砂漠地帯とその周辺は、ミングオに朝貢する砂漠の民によって支配されており、ニウルスはその曖昧な境界を嫌った。

 ゆえに砂漠の民に、同盟か交易を迫ったのだ。

 西方諸国と彼らとは、論理も、政治も、哲学も、何もかもがあまりに違った。

 当時のニウルスにとっては、彼らは野蛮であって、獣であった。人としての統治を必要とする憐れな未開人。野心半分、憐れみと嘲りが入り混じったその外交に、誇り高き砂漠の民は怒り、友好を拒んだ。

 ニウルスはもとより、ミングオと事を構えたくはなかったし、砂漠地帯などどうでもいいことだった。ただ、その広大な砂漠を超える術と、ルートをミングオに握られたままでいることは、今後の覇道に差し障ると考えての交渉のつもりだったが、差し伸べた手を払われれば別だ。

 八千の兵を差し向け、少し脅してやろうと考えた。

 砂漠の民は、少数の部族間による血盟を主とした軍閥が盛んで、必ずしも結束は固くない。多く見積もっても三千そこそこの戦闘員。そもそも、非戦闘員も含めた総人口からして、一万をはるかに下回る数でしかないのだ。いかに地の利がなくとも、過酷な地であろうとも、そしてミングオが後ろに付こうとも、負けるはずがない。


 だが、挙兵から半年もたたず、ニウルスは己の慢心を悟る。


 差し向けた一万二千の兵士、ことごとくが砂漠に血を吸わせて果てた。

 わずかに生き残った兵士たちからの情報を集めると、そこに浮かび上がるのは、精強な砂漠の民と、たった二人の個人。


 『サグ・サールナート』

 吟遊詩人の詩や、巷間にはびこる遊び歌に、その名を聞いたことがあった。ミングオの天下十剣にも数えられるという、砂漠の民、小さな部族の長。神のごとき力と目を持つ若き巨人。


 『ハーダンシェル・シルベストリ』

 放浪の傭兵として名高く、幾多の戦場で必ず「劣勢の側にいる」と言われる男。

 『無間傭兵』と恐れられ、その前には数限りない血と死体が積み上がるという。彼がなぜか、砂漠の民に雇われて敵対しているという。


 耳を疑った。だが、現に兵は失われた。

 ニウルスは、早急に軍を再編成し、三か月で砂漠地帯に自ら立った。

 輜重も含めて総数三万三千

 精鋭を組み込んだ、戦闘力と言う意味では王国最大に近い布陣だ。

 愚かなことをしているという自覚はあった。慢心に対する自制でもなかった。

 ただ、血が騒いだ。

 砂漠の風にけぶる砂丘の遠くの丘に、その影はあった。


 

 ニウルスは、グラスを取り落としかけて、午睡から覚醒した。

 半端な時間にワインを飲んだせいだ。酒に弱くなった、とひとりごちる。


 強さに憧れ、強さに溺れ、強さに狂った。


 人生最大の失敗の夢の続きを、見たいような、見たくないような気持で、手のうちで温くなったワインを下げさせ、大きく息をついた。

 頭の中では、あの砂漠の熱が、耳鳴りを思わせる風が、小さく渦を巻いているようだった。

「武か……」

 暗殺未遂時間から、そのことが頭から離れない。

 暗殺者に立ち向かおうとして、ニウルスは剣をとり落とした。半端な鍛え方をしてきたわけではない、凡百の兵であれば、まだまだ互角以上に戦える。自身ではそう思って来た。

 老い。

 もう一度息をついて、じっと過去を振り返る。

「サグ・サールナート……ハーダンシェル・シルベストリ……」

 戦いの中、たった二人の強者が、まさに砂嵐のように兵を巻き上げるのを見た。騎兵の突撃も、雨の様な矢も、まるで通用しなかった。ただの一個人に、何百、何千の兵が砂のように払われた。

 あり得ぬ、誰もが言った。

 その様を見たものは、もうほとんどこの世を去り、ニウルス自身、老いのせいか記憶にも自信が無くなってきた。

「段景亮……」

 もう一人の名を呟いて、ニウルスは身をゆすった。その名を口にするたびに、歳経た今も総毛立つような畏怖をありありと感じる。確かな記憶であることを物語るように。


 サールナートとシルベストリは生きていれば己と同じくらいの年齢であろう。

 いま一人、段景亮は、まだ40に差し掛かるかどうかというところだろうか。それほどに若かった。

 妬ましかった。

 その圧倒的な強さが。

 取りつかれた。

 ゆえに「こちら」の人間である、シルベストリを「天下十剣」に並びたて、吹聴した。この三十年でいつの間にか天下十剣は国を越え、文化と言語を越えて多くの民に共有された。だから、基準が明確でなく、ひとりひとりが挙げる名は一様ではない。調べさせると、大小の名を合わせて二百人以上。

 だが、そこにはほとんどで共通する名が常に五人はいた。


 ニウルスは顔を上げ、もう一度だけ深く息をついた。

 自分の配下に天下十剣を。

 その決意が、老いたニウルスの顔にまた生気を吹き込み始めた。






 夕焼けの桃色に染まる山を眺めて、男は体を伸ばした。

 年のころは六十。短く刈りこんだ髪は、かつては輝くばかりの銀髪だったが、口周りの髭と共に白が混じり、夕日を浴びて、時折不思議な色に輝く。

 決して長身ではないが、岩を連想させる分厚い体に、硬く大きな手には常人にとってふた抱えほどにもなる農作物と農具を持ち、さらに年老いたロバの引く台車には乾燥させた丸太が三本、乗っている。

「おお、ハディ! 精が出るな」

 遠く馬上から声をかけたのは、領主のテイゼンだ。

 ハディは軽く目を伏せるように礼をして、歩みを進める。

「今年初めてカモがとれたのだ! 明日届けさせるゆえ、ナラーに食わせてやれ!」

 領主はその背にカモを何羽も吊るし、人懐こい笑顔を向けていた。

 家に帰ると、妻のナラーが台所に立ち、かまどの鍋を見つめていた。

「起きていたのか?」

 ハディの小さく、だがよく響く声でナラーはふと我に返ったように振り向いた。

「あなた、お帰りなさいませ。お疲れ様でした」

 ナラーが静かに寄って、荷ほどきを手伝おうとする。

「かまうな。体調はいいのか?」

「ええ、不思議と今日は体が軽くて」

 ハディは目を細めて妻を見た。細い体、浅黒い肌、高く鋭い鼻に、柔らかで大きな瞳。決して美しいと言われる顔立ちではないが、ハディはその顔が好きだった。

 ハディがロバの世話をして、荷を解き、体を拭き清めると、夫婦の質素な夕食が始まる。

「ご領主が、明日カモを届けてくださるそうだ。今年は開墾が思いのほかうまくいったからな。機嫌が良い」

「まあ、素敵。カモは大好きです」

「たまには、ワインでも飲もうか」

「ええ、ええ。とても楽しみだわ」

 秋の暮れのか細い光のほかは、小さな灯だけの薄暗い部屋。だが、静かな食卓は、いつもハディの心を慰める。

 知人の家の孫が転んだ。領主のメイドが卵を落とした。村の外れでかぼちゃが盗まれた。その日の何気ない小さな話題を、ナラーは喜んで訊き、頷き、笑う。

 その笑顔に刻まれる深い皺に、ハディは少しの寂しさと、深い慈しみを感じるのだ。

 二十年前に息子を亡くし、元から体の弱かったナラーは床に伏せることが多くなった。この生活も、もう長くはないだろう。この数年、ナラーの食は細くなるばかりだ。老夫婦は日々を噛みしめるように、お互いを見つめ合った。



「このあたりのハズなんだがな」

 竜槍を手のうちで器用に回して、ジーンが言った。

 地方領主の家は、屋敷というにはやや規模が小さい。メイドが三人、執事がひとり、そして領主テイゼンとその家族。いまや、テイゼンの他に息をするものはいない。

 後ろ手に縛られ、猿轡をかまされて、テイゼンは床に転がる妻子を見つめて、ただ泣いていた。

「領主の家なら、なんかわかると思ったんだがね」

 ダリルはそう言って書棚から紙類を引き出し、丁寧に目を通す。

 地方領と言っても、人口は千人を下らぬ、その管理台帳に目を通すのはさすがに骨が折れた。

「もう叫ばねえなら、猿轡とってやっても良いぜ?」

 ジーンは焼きすぎて焦げたカモ肉にかじりつきながら言う。だが、言われたテイゼンは呆けたようにジーンを見つめ、何の反応もしない。現実を受け入れ切れていないのだ。

「俺らはさ、人を探しているだけなんだ。わかるかい? 領主さん」

 塩をひと舐めして、ワインをあおるジーン

「それさえ教えてもらえりゃ、別にあんたに用はねえ。ギャーギャー騒がなきゃ、奥さんや息子さんみたいに死ななくて済む」

「ジーン、ちょっと黙ってろ」

 ダリルが眉間に皺を寄せて書類から顔を上げる。田舎領主にしては管理している方だが、書式も年代もバラバラの記録を追うのは想像以上に手間だ。

「テイゼンさん、無礼の段はお詫びします」

 ダリルはテイゼンに歩み寄り、猿轡を外しながら落ち着いた声を出した。その深い緑の瞳にはありったけの親密な光がやどっている。

「流血は全くの誤算だったのです。誓って本意ではない。ただ、我々にも切迫した事情があり、誤解を生んでしまったことは慙愧に耐えません。まるで押し入り強盗のように思われてしまって――」

 ――正面の扉から堂々と入り、誰何する執事を斬りつけ、叫んだメイドを二人斬殺した。驚いて出てきた領主が息を呑む間に、ジーンは残りを殺していた。

 あっという間に、自身以外のものが血に塗れて倒れているだけ。テイゼンが呆けるのも無理はない。

 向こう見ずな殺しにダリルですら頭を抱えたが、こうなってしまっては仕方ない。

「先ほども言った通り、私たちは人を探しているだけなのです。ただ、事情が非常に込み合っていまして……詳しくご説明申し上げたいが、そういうわけにもいかない。ともかくお聞きしたいのは、ただ一人の所在についてです」

 テイゼンは、色をなくした瞳でダリルを見返した。その瞳に憎悪の炎が宿るまで、もう数十秒はかかるだろう、そういう機微をダリルはよく察した。

「ハーダンシェル・シルベストリ」

「ハーダンシェル……天下十剣」

「さすがによくご存じだ。その伝説の傭兵を探しているのです。数十年前、忽然と姿を消した天下十剣のひとり。年のころは六十。銀髪、銀髭、深い藍色の瞳、多数の生傷、堂々たる体躯……噂では妻を娶ってどこかへ消えた、と。雲をつかむような話ですが、まるきり手がかりがないわけでもない。人並み外れた膂力、反射神経、戦闘能力……今、どれだけそれが残っているかはわからないが、何もかも隠して暮らすには、彼の能力は圧倒的すぎる」

「天下十剣大好きなジジイが知り合いにいてな、このあたりに力持ちの爺さんがいると聞きつけたわけだ。その調べを俺たちが任された」

 ジーンの口出しに、ダリルは舌打ちしたいのをぐっとこらえた。下手に介入されるとやりづらい。

「まあ、そんなところです、テイゼンさん……」

「私の、妻と、息子は……」

「テイゼンさん!」

 呆から抜け出そうとするテイゼンに、ダリルが鋭く言った。強く圧するような早口。

「時間がないのです! あなたの領地、領民に危機が訪れている!」

「危機?」

 それは全くのでたらめではあったが、心の平衡を失ったテイゼンに、もっともらしく響いた。家族と使用人、全員が無意味に殺されたとは思えない。

「そう、ともかく、シルベストリの名ではなくとも、それらしい人を知りませんか? 六十がらみの、身体頑健な……」

「ハディ……」

「何です?」

「ハディだ。私が知る限りその特徴に合うのは……東の、ため池の奥の森の境に小さな家を構えている」

「ひとりで?」

「妻のナラーと……息子のシリルは、死んでしまったが、私の父が名付け親だ。この領地はハディに助けられたことが……昔、領地の外れに巣くった山賊どもを退治してもらったことがある。隠してはいるが、剣の達人ではないかと、父が語っていたのを覚えている」

「ふむ……」

 頷いて、ダリルが拳をテイゼンの喉に打ち付けると、骨が砂糖菓子のように潰れる音が響いた。テイゼンは血を噴きながらのたうち回った挙句、死んだ。

「いるとしたらそこ以外ないだろうな」

 死体にはもう一片の興味を向けず、ワインとカモ肉の多少マシな部分を受け取って、ダリルはまた管理台帳に向き合う。

「あ? まだなんか調べんのか?」

「一応な、これ以上無駄に殺すと厄介事が増える」

「怒ってるか?」

「……殺すなと言ってるんじゃない、順序を考えろよ、ジーン」

「悪かったよ。槍の使い心地がどうしても気になってさ」

 ダリルは片眉を上げてジーンを見たが、何も言わずに口の端をあげた。

「あった。こいつだろう」



 領主の屋敷で火事。

 急報が届いたのは明け方近くだった。ハディの家からも西の空が煌々と見える。

「お前は温かくして寝ていなさい」

「あなた、お気を付けて」

 ハディはシャツを着替えただけで、斧をひっつかんで走り出した。

 テイゼンと、その父には深い恩義がある。

 素性も知れぬ夫婦に家を与え、狭いながらも畑を貸してくれた。野党を追い払った功績でその畑を貰い受け、亡き息子の名付け親になってくれた上に、立派な墓まで立ててくれた。先代の跡を継いだテイゼンも、能く治める立派な領主だ。

 ハディが駆けつけた時には、屋敷の火事は人の手ではどうにもならないほどに、炎をふきあげていた。

 周囲には領主、家族、執事もメイドもいない。

 人々はそれについて多くを語らず、ただ必死に延焼を防ぐために周囲の枯れ木を打ち、水を撒いた。

 ほぼ鎮火したのはその日の昼近く。屋敷だけでなく、納屋、厩が全焼したが、それ以外に火が回らなかったのは幸運だった。

 町の有力者たちが消沈して今後の討議に入った時、煤に塗れたままでハディは帰路についた。


 半日以上かけて駆け回った。考え事をするには、あまりにも消耗していた。

 だから、戸を開けるまで、我が家の異変にも気づかなかった。

「ああ、お帰り」

 出迎えたのは若い男が二人。

「……妻は?」

 言いながら、馬鹿なことを訊いていると思った。同時にまるで幕がかかったように回転しない頭が、ようやく冷水を浴びせたように覚醒するのを感じた。

「ナラーは、どうした?」

「奥さん? ああ、ベッドで寝ているよ」

 目つきの悪い方の男が、事もなげに言って寝室を顎で示した。もう一人の青年はじっとハディを見たまま動かない。


 寝室のナラーはベッドの上で朱に染まっていた。


 この細い体のどこから、と思うほどに胸の出血は多く、床に滴ったものは固まりかけていた。

 ハディは、血に濡れるのも構わず跪き、ほとんど体温を失った妻の額を撫でた。

 ベッドから起き上がりかけたところで、胸をひと突きされた。そういう無造作な格好だった。苦しんだ形跡はない。

「ナラー……」

 あまりの突然のことに、ハディはかける言葉が出ずに、ただ妻を撫で続けた。

 なんだ、なんなのだこれは?

「なあ、おっさん、ハーダンシェル・シルベストリだろ?」

 声。どちらの青年か。

 返答することすらできない。その名は自らの名だと思えぬほど、遠い記憶。

「なあ、おい。悪いんだけど、それだけ聞かせてくれるか? どっちにせよあんたは死ぬんだけど、それがはっきりしないことには意味ねえんだ」

 肩口にペタペタと当たる、槍の穂先。

「いやね、悪いとは思ってるんだけど、俺たちも事情があってさ。名を売らなけりゃ――いや、とんでもなくデカく名を売らなきゃならないんだ。ちょっと大逆しちゃってよ」

 冗談のつもりか、屈託のない笑い声。

 ハディの凍りかけた頭の奥で、ざわりと蠢くものがある。

「逃げ回るのも億劫になり始めたところに、知り合いの爺と会ってな。たまたま、あんたの情報を手に入れたんだよ」

「大逆だけならタダの重罪人だが、武名をあげれば、どこかに後ろ盾を得ることが出来るかもしれない。それが無理でも、ミングオでもどこでも逃げやすいだろ」

 男たちはなにかを話しているが、もう頭には入ってこない。

「天下十剣のハーダンシェル・シルベストリを殺した。十分な武名だ」


 ハディは目を閉じた。

 瞼の裏に仄かに光る何かが見える。出会ったころ、息子を失ったとき、昨日の夜、今日の朝……妻はいつも儚げに佇む。その姿が、何よりも激しく胸をかき乱した。


「外に出てくれ、部屋を荒らしたくない」


 そう言って、立ち上がる。押し付けられていた槍の穂が、肩の肉を薄く裂くが、気にもしない。もしも後ろから刺されても、別に構わない。男たちは毒を抜かれたようにハディの後に続いて外に出た。馬小屋の前で三人は対峙した。

「一応、名を聞こうか」

 青年二人を見据える。

「ジーン・ジグジーン」

「ダリル・ジグジーン」

 ジーンは槍、ダリルは騎士剣を隙なく構える。

「ふざけた名だな」

「あんたに言われたくねぇな。ハディさんよ?」

「……確かに。つまらん偽名だ」

 胸に湧き上がるものが、吹き出しそうになるのを感じる。怒り、悲しみ、後悔、何もかもが入り混じり、燃え上がる。二人に訊きたいこともある、あるが、もう抑えきれない。

「お前たちの言う通りだ。私は……ハーダンシェル・シルベストリ」

 ジーンが口笛を吹く。

 そこへ、強烈な闘気が叩き込まれた。

 二人のジグジーンは思わず体を固くして、半歩下がる。

「無間傭兵、ハーダンシェル・シルベストリ」

 己の名を確かめるようにもう一度呟く。拳に力が、全身に闘気が、瞳に闇がこもる。

「お前たちは武名を上げることなど出来ない。出来るのはただ、ここで妻に詫びて死ぬことだけだ」

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刃蒐八章 渡辺人生 @shizukano

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