白染めの月夜

冷麺

第零話:序文

 一体何年眠っていたんだろうか。

 とても体が重い。瞼も、まともに開かない。

 これ程に眠ったのは、一体何時ぶりだろうか。いや……こんなにも眠ったのは多分初めてだ。

 数十分や数十時間、数日じゃない。

 もう、何年も――眠っていたんだろう。


 きっと、あの頃とは世界の風景と言うのは、様変わりしているのだろう。だとしても……やるべき事がある。

 眠っている間に脳裏に焼き付いた、何度も何度も繰り返した誰かが見せた夢。


 ああ、予知夢とでも言うのかもしれない。

 普段の自分なら、それを虚構だと言って笑っただろう。

 でも何故か、その夢だけは――妙に現実感があったのだ。

 

 それはきっと、既に自分は……まともじゃないからだ。

 この世界に溢れていた、白魔術とか、そういう類なら自分でも知っている。しかし、それは自分には宿っていない。それは確かだ。

 

 しかし、今は確かに感じる。

 この体に今、白魔術ではなく……黒き魔術の力があると。

 黒魔術でなくとも、それに近しいものが在ると。

 そしてそれはきっと、目覚めて、見た夢の世界を避けるために在るのだと。

 何故か、感じた。


 ああ、漸く視界が現実を捉えていく。

 おはよう、僕。

 世界と向き合う時間だ。

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