第30話 勉強会?


「お邪魔しまーす」


 そう言いながら僕の家にやって来たのは、それぞれ中二部の面々。

 当然ではあるが休日なので、みんな私服姿だ。


「ここまで迷わなかった?」


「はい! でも事前に地図を描いてもらったのは正解でした」


「ここら辺は特に地形が分かりづらいからね。目印とかも少ないし」


 初めは一度どこかに集まって僕が迎えに行こうと思っていたのだが、わざわざそこまでしてもらうわけにはいかないという柊木さんの意見で、地図を描くだけに留まったのである。


 まあこれから勉強を教えてもらう身からすれば、それくらいは当然だと思うのだが……。


「階段上ってすぐの部屋だから、先に行っといて。僕は飲み物とか用意してから行くから」


「あ、私手伝いましょうか?」


「大丈夫! 部屋で適当にくつろいでてー」


 我が物顔で階段を上っていく二人とは違って相変わらず優しい柊木さんが手伝いを申し出てくれる。

 さすが僕の心の中で、中二部の良心と呼ばれているだけある。


 因みにだが、皆を先に向かわせて大丈夫なのか、と全男子の諸君なら心配するだろう。

 そう、いわゆるR18本的な意味で。


 しかし安心してほしい。

 普段の僕(ベッドの下に隠している)なら確かに危なかっただろう。


 だが女の子の友達が来ると聞いて、そのまま放置しているような僕ではない。


 ましてや今日はあの小春先輩だっている。

 普段の言動から考えても、小春先輩ならまず間違いなく僕の部屋に隠されているR18本を見つけ出そうとするだろう。

 そしてベッドの下なんてのは一番最初に見つかってしまう場所なのは間違いない。


 だから僕は今日のためだけに、持っているR18本を全て別の隠し場所に移動したのだ。


 その隠し場所というのが――――勉強机の引き出しである。

 因みに四つある引き出し全部を使って、ようやく何とか入り切ったのは今は関係ない話だろう。


 しかし、まさか小春先輩も普段から使われている勉強机にぎっしりR18本が詰め込まれているとは思うまい。


 つまりこの勝負、僕の勝ちだ。


 そう余裕の笑みを浮かべながら飲み物を準備して自分の部屋に向かったわけなのだが――――。


「何で見つけてるんですか!?」


 部屋に入ってみると、勉強のために用意していた折り畳み式の机の上に、僕の大事なR18本が山積みにされていた。

 しかも一杯ノーマルなやつがある中で、ちょっとアブノーマルな一冊を一番上に持ってくるあたり悪意を感じる。


 そしてそれを囲むように座る三人はそれぞれ違った顔をしている。


 三奈野さんはそもそもあまり興味がないのか特に気にしていないような表情。

 正直これが一番ありがたい。


 次に小春先輩だが、めっちゃニヤニヤしている。

 恐らくアブノマールな一冊を一番上に持ってきた犯人は先輩だろう。


 最後に一番心配だった柊木さんだが……。

 これはもうこっちがビックリするぐらい予想通りに、顔を真っ赤に染めて俯いている。


 何はともあれ、今は文句を言わなければならない。


「小春先輩! 男子高校生の秘密をそんな簡単に暴かないでください!」


「別に私が暴いたんじゃないよ? 私がしたのは一番上にこの本を置いただけ。……というか、それ以前にえっちな本多くない?」


「だ、男子高校生ならこれくらい普通です! ……って、小春先輩がこれを見つけたんじゃないんですか?」


 思わず叫んだ僕だったが、気になる言葉があった。

 それについて尋ねてみた僕だったが、小春先輩は素直に頷く。

 その表情はとても嘘を吐いているようには見えない。


「じゃ、じゃあ誰が…………え」


 と、つい呟いてしまった僕に、小春先輩が指をさす。

 その方向を見て、僕は思わず固まる。


 そこには相変わらず真っ赤に顔を染める柊木さんがいたのだ。


 事情を呑み込めない僕に、親切なのか追い打ちなのか小春先輩が説明してくれる。


「もちろん最初にえっちな本を探そうとしたのは私だけど、ベッドの下とか色々探したんだけど見つからなくてね?」


 色々なところを見た、というなかなかに聞き捨てならない言葉が聞こえてきたような気がするがとりあえず今はスルー。


「そんな時に私を止めようとしたのがその子。柊木ちゃん曰く『こ、こういう時ってアルバムとかを見るのが良いと思うんです! え、えっとアルバムなら勉強机とかに……』とか言ってたんだけど、まさかえっちな本の気配を感じていたなんてね」


「感じてませんから! 偶然です!」


 それまで俯いていた柊木さんが小春先輩の言葉に全力で否定する。

 まあ恐らく柊木さんは僕のために小春先輩を止めようとしてくれたのだろうが、結果的にそれが仇となってしまったのだろう。

 僕もまさかそんなことになるとは思ってもみなかった。


 よく見ればぷるぷると肩を震わせているあたり、もしかしたら泣きそうなのかもしれない。

 まあ、泣きたいのはこっちなんだけど。


 しかしいつまでもこんなことに時間を費やしているわけにはいかない。

 何はともあれ今日は勉強会のためにわざわざウチに来てもらったのだ。


 僕は強引に机の上の大事な本たちを押入れに突っ込むと、もう一度自分の場所に座る。

 そして教えてもらう予定の教科の教科書を広げる。


「……どうしたんですか?」


 すると向かいに座る小春先輩が何やら不思議そうな顔を浮かべている。


「アルバムは?」


 さも当然のように言ってのける小春先輩。

 しかも右隣に座る柊木さんまで、アルバムという言葉に固まっている。


 僕は思わず大きな溜息を吐きながら叫んだ。


「勉強は!?」

 

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