第29話 クビ


 部員の中で一人でも赤点者がいたら、文化祭に参加することが出来ない。


 小春先輩の言葉に一同が固まる。

 それは皆が、僕の成績が悪いことを知っているからだ。


「あんた、クビ」


「それはあんまりでしょっ!?」


 もはや部長の三奈野さんなんかは僕が部活を辞める前提で話を進めようとしている。

 きっと休日に買い物に付き合ってもらったことはすっかり忘れているのだろう。

 何て奴だ。


「さ、さすがにそれは……」


 そこで柊木さんが三奈野さんに苦言を呈す。

 さすが中二部の良心、と呼ばれるだけある。

 因みにそう呼ばれているのは僕の心の中だけの話だ。


「それに部活は最低人数が四人ですから、朝野くんが抜けたら足りなくなってしまいます。今から新しい部員を探すっていうのも大変だと思いますし……」


「そんな現実的な理由は知りたくなかったよ!!」


 まさかの事実が発覚である。

 もっと可哀想とか優しい理由で止めてくれていたと思っていたのに、実際は部活を存続させるためだったらしい。


「ち、違いますから! そういうのもありますよっていう確認のつもりで言っただけで……」


 僕の悲痛な叫びに慌てて訂正してくる柊木さん、可愛いです。

 やっぱり中二部の良心とは柊木さんのことだ。


「じゃあ聞くけど、あんたこの前のテストの点数はどうだったのよ」


 柊木さんを尊んでいると「まったく、仕方ないわね」という口調で三奈野さんが聞いてくる。

 本当は言いたくなかったが、とりあえず話を進めるために僕は覚えている限りの点数を言っていく。


 そして僕が大体の点数を言い切った後、三奈野さんは信じられないものを見るような目で僕を見て来ていた。

 柊木さんもどこか青ざめている。


「やっぱり新しい部員を探す方が簡単なんじゃない?」


「見捨てないで!?」


 まさかの話が戻ってしまった。

 しかもさっきと違うのが、柊木さんもどこか三奈野さんの意見に賛同しようか迷っているところだろうか。

 よっぽど僕の点数がショッキングだったらしい。


「そ、そういえば小春先輩って成績どうなんですか?」


 そこで僕は小春先輩の存在を思い出す。

 きっと小春先輩は僕と同類だ。

 だって先輩はサボリの常習犯らしいし、言っちゃ悪いが見た目もとても優等生のようには見えない。


「んー? 私はこんな感じだよ?」


 まるで僕が聞いてくるのを予想していたかのように、小春先輩が前回のだろうテストの点数表を見せてくれる。

 隣からは三奈野さんと柊木さんも覗き込んでくる。


「ぜ、全部90点超えてる……」


 点数表を見た僕は、愕然とした。

 小春先輩の成績が予想よりも遥かに高かったのである。

 学年での順位こそ書いてないが、これならかなり上位なのは間違いない。


「ほら、私って要領だけは良いって言うか?」


 聞いてもいないのにそんなことを言ってくる。


「しょ、正直意外でした……」


 柊木さんも小春先輩の成績を見て驚いている。

 唯一そんなに驚いていないのが三奈野さんだが、そもそも他人の成績にあまり興味がないのだろう。


「じゃ、じゃあこの部活で成績がやばいのって僕だけ?」


 一人は学年首位、残りの二人も成績はかなり良いと来ている。

 肩身が狭いとはまさにこのことだ。


「ねえ、こんな感じで作ってみたんだけどどう?」


 絶望している僕に三奈野さんが何やら見せてくる。


「何々? ……『新入生、歓迎』……ってもう諦める気満々じゃん!?」


「そりゃあそうでしょ! 私たちだって一人の馬鹿に付き合うより新しい子を探した方が良いに決まってるわ!」


「べ、勉強会をしよう! ちゃんと真面目にやるから、見捨てないでえええっ!?」




 そして僕の必死の頼みが報われ、今週末に一人暮らしの僕の家で勉強会が開かれることになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る