近代日本においてラブコメというジャンルを形成する上で大きな役割を果たしたのは『うる星やつら』だが、これに従って考え直してみると、ラブコメとはラブが成就するまでの過程をコメディによって耐えるジャンルだと言える。
そう考えると、主人公とヒロインの間に対立があって、その二者の関係性を埋め、いつしか恋愛として成就させる物語としての喜劇性が、高ければ高いほどラブコメは上質化すると想定できる。
果たして本作の場合、舞台は現代日本の高校であるが、なぜか主人公の朝野は魔王で、ヒロインの三奈野は勇者であるという。
勇者と魔王といえばくっつくものだという間違った常識がまかり通っている昨今だが、普通はくっつかないものがくっつくだけの物語というものにはまさに強度が必要なはず。
そもそも普通の高校生である彼ら彼女らがそういう存在であることを知らされる過程もかなりとぼけた展開で特に朝野の両親が曲者なのだが、いずれにせよ単純に学園コメディとして面白く、こういう冗長性こそがラブコメのクオリティの根幹なのだと改めて知らされる良作である。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=村上裕一)