非凡少女と目のない私
@STUKIMIYAUTANE
00 目のない私と花
目の前には花がある。
小さくて赤くて可愛らしい花。
麻奈子は花の輪郭をなぞった。
彼女には目がない。
ぽっかりと空洞、とはなっていない。右目は包帯で覆い隠して、左目はガラスでできたグリーンの義眼を着用している。
「ふふ」
麻奈子は毎日、ソファーの上で花を愛でて遊ぶ。
麻奈子の周りにはいつも一人の執事がいる。
彼は必要以上に言葉を発しないが、麻奈子のしたいことを完全にサポートする。
お茶が飲みたいと麻奈子が思えば、指示を出すよりも先にティーセットを準備する。
お風呂に入りたいと思えば適温に温められた湯船へと麻奈子を運ぶ。
麻奈子が花を愛でて過ごすようになったのも彼が鼻を用意してからだ。
彼女はとても喜んで、毎日花を愛でている。
「ねぇ」
ふと麻奈子が執事に声をかければ、執事は麻奈子をじっと見つめた。
「お花さんたち、たまには濡れてないものがいいわ。ベタベタするの」
「失礼しました。明日より善処いたします」
「ん、よろしくね」
花遊びに飽きた麻奈子は濡れた花をべちゃりと床に落とした。
ソファーから立ち上がればふらふらとおぼつかない足取りで部屋から出て言った。
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ツン、とひどい匂いが執事の備考を掠める。
花の匂いもここまで臭いとは。とは零さずに、麻奈子が捨てた花をポリ袋へと入れていく。
きつく口を結んだ。
屋敷裏には焼却炉があるためいつもそこで処分をしている。
窓を開け換気をする。
濡れた雑巾で部屋を掃除して、重たげにポリ袋を持ち上げた。
冷ややかな目付きで手のそれを見つめる。
「今日も麻奈子様は飽きられてしまった」
ふう、と息をはく。
これは珍しくもないが、持ってくるには難しい花なのに。
もう一度室内を見渡し直して、掃除し損ねた所がないのを確認すると重い足取りでその場をあとにしようとした。
「あぁ、これが気になるんですか?」
「ただの花…ふふ、花には見えませんか?」
「肉片ですよ。犬のね」
ドサリ、とポリ袋を焼却炉へと投げ込んで、今日もゴミとともに火を灯す。
夕方には隣町で一人の少女が行方不明だと言うニュースが流れていたが、麻奈子も執事も起こったニュースをただただ怖い世の中だと聞き流すだけだった。
非凡少女と目のない私 @STUKIMIYAUTANE
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