第2話 カレーは二日目が美味しい、は常識なのにっ! 嗚呼、それなのにっ!!

「…………う、嘘、だよね? うん、これは嘘だ。夢だ。ボクは悪い夢を見てるんだ。きっと、目が覚めれば!」

「あ~美味しかったぁ、ごちそうさま。あんたって、料理も上手なのね。そんな顔して、女物の服も似合って、料理まで……」

「えっと、えっと、舞花ちゃん、これから頑張ろう、ね?」

「…………君達」


 椅子に座り、くつろいでいる後輩二人を睨みつける。あの後、突然やって来た挙句、カレーと南瓜のプリンを要求したのだ。

 香澄達に提供していた手前、断りにくく、渋々、食べさせた結果――今、僕の前の鍋は空。大鍋いっぱいに作った、特製カレーは、残らず食べ尽くされてしまった! 

 何たる悲劇! 何たる惨劇! というか、君達、何杯、お代わりしたの!?

 抗議の視線で後輩二人を射抜き続ける。じー。じー。じー。

 すると、二人はボクを見て、ぽ~、っと、頬を赤らめている。

 な、何さ? ボクは怒ってるんだよっ!!

 香澄と桜宮さんは鼻唄をはもりつつ洗い物中。

 桜宮家って、この国、家格だと最上位の筈なんだけどなぁ。妙に、エプロン姿が似合ってる。

 ……はっ! 

 いけない、本筋からズレた。

 今は、全力で怒るべき局面。ここで、怒らずして、何時怒る! 怒れ、怒れ、怒るんだっ、ボク!!

 眼光鋭く、客人四人へ指摘する。


「……カレーとプリンを食べていい、って言ったのはボクだし、美味しく食べて――美味しかったよね?」

『美味しかったです☆』

「そ、そっか。……えへへ♪」


 頬に両手を付けて、にやける。

 料理作って、誰かに『美味しい』って言われるの、嬉しくなる――はっ!!

 首をぶんぶん振る。

 にこやかな四人の視線。くっ!


「……こほん。食べるのはいいけどさ。ど・う・し・て! 大鍋いっぱいに作ったカレーと、明日の分も炊いた白米と、お気に入りの器の分だけ作った南瓜のプリンが全部なくなるのさっ!」

『?』


 美少女四人が顔を見合わせる。控え目に言っても、みんな華奢。こ、この子達の何処に、これだけのカレーと白米を食べ尽くすスペースが!?

 しゅんと、し呟く。


「……カレーは二日目が美味しいのに。ボク、楽しみにしてたのに。酷いよ……」

「優希様」 


 洗い物を終えた、エプロン姿の香澄が一瞬で距離を詰め、ボクの両手を握りしめた。

 流れるような動作で、クッションに座り、ボクを膝上へ。


「「!?」」「まぁまぁ」

「申し訳ございません。あまりの美味しさんい、つい。お詫びに」 

「……お詫びに? あと、委員長」

「香澄です」

「……香澄。そのエプロンのキャラって」 

「『魔法少女☆姫野優希!』です。今夏、全国ネットで放映を」

「嘘を言わない! あと、肖像権の侵害っ!! それは没収」

「お断りいたします。既に、許可済みでございます」

「! き、許可!? 本人であるボク以外の許可!?!」


 いつの間にか、肖像権すら奪われていた、と……?

 脳裏に浮かんだのは三人。

 

 うふふ、と笑う姉の姿。

 ふんっ! と腕組みをしている妹。

 こうした方が! と熱心に主張する末妹。

 

 ……い、いけない。味方が、味方がいないっ!


「森塚先輩! はしたないです! 膝上に、同い年の男子を乗っけるなんて……」「! 月風ぇ……」


 思わず、涙ぐむ。

 そう、こいつは、暴走しがちで、空回りして、料理も出来なくて、ボクを先輩と思っていないけれど、筋を通す時はきちんと 


「ズルいです! 代わってくださいっ! 代わっていただいたら『今回は巫女服連合』に協力します」 

「月風!?」

「不要です。貴女の力添えがなくとも、私達の勝利は盤石。極端な話、矢野が勝たなければ、それで良いですし? ……優希様に、ゴスロリなど。まったく、あの男は分かっていません。それなら、まだ制服の方がマシです」

「その意見には同意します。ゴスロリなんて……ダメです!」

「…………」


 双神さんへ視線を向ける。どーいうこと?

 困ったように笑い、視線で返答。『……私は、魔女っ娘、とかいいかな、って思うんですけど? ダメ、ですか??』。

 …………おかしい、言葉が通じない。

 ならば! 桜宮さん―—は、もう毒されているんだった。


「と、とにかくっ! そいつを離してくださいっ!」 

「嫌です」

「ギギギ」


 香澄と月風の間に剣呑な雰囲気。はぁ……この子達は。

 飛び散り始めた、魔力を消失させ、一言。


「―—暴れるなら、帰って。今すぐに」 


 ぴたり、と二人の動きが止まった。

 膝上から降り、腰に手をやり、お説教。


「あのねぇ……喧嘩するなら、外でやって! というか、もう帰ってっ!! ボクは買い物へ行くからっ!」

『? 買い物??』

 

 少女達が揃って、疑問を浮かべる。

 ぽつり、と呟く。


「…………カレー、もう一回作るのっ! それで、一日寝かして、明日も食べるのっ!! ほら、帰って――か、香澄? 月風?? ふ、双神さんまで!?」


 両腕と後ろから抱きしめられ、桜宮さんは前から撮影中。

 え、え?


「そういうことだったら」「私達も一緒に行くわよ」「姫野先輩と、お買い物したいです」「うふふ♪」


 そんな姿を見られたら、御近所さんに何て言われるか!?

 ……断固、拒否だ。拒絶だ。漢になるのは今!


「断」

「……拒絶したら、私は『全部着せ替え』派として活動する」

「…………」


 ―—この後、近くのスーパーで買い物をした、五人で。

 なお、二日目のカレーは美味しかった。

 それにしても、こういう時、必ず出現して、場を荒らす拓海が来なかったのは何でだろう?

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魔法学校のお姫様 七野りく @yukinagi

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