最終話

 わたしも誕生した。

『第二の宇宙』でふたたび誕生したのだ。

 えいごう不滅の神霊と契約したあなたと相違して極悪無道の魔王と契約していたわたしはこのほうはくたる物語をあまねく忘却していた。ようなわたしは日本列島は岐阜県の産婦人科病院で誕生しれんちゆうきゆうのような運命にきようどうされた父親がはいじん同然となって事故死しおなじく母親がうつぼつたる鬱病にかんして自殺したのち中華料理店を経営する親戚に引取られ平々凡々たる小学校中学校を卒業すると大学入試資格検定に合格しわいざつなる零細企業の鉄工所に勤務してしゆもなく黒魔術の奥義書『アブラメリンの魔術』をしようりようするりよにでたのである。

 わたしたちはかいこうした。

 ひつきよう『アブラメリンの魔術』の英訳書をきゆうするわたしが東京都は千代田区新保町の古書店街へまいしんしたいんしんたる街角にてきちよくするきようあいなる古書店へとさまいこんだところ完璧なる初対面であるはずのレジ係の女性が突然にかいれいなる微笑をうかべながら物語はじめたのである。いわくひさしぶりだね。わたしのこと覚えていないでしょうねと。初対面の女性すなわち『あなた』はまでの物語をわたしにでんしてくれた。しゆつこつとしてほうはくたる物語をほうふつとしたわたしはようちようとして微笑しているあなたに挨拶をした。はじめましてじゃないか。なんていえばいいんだろうと。

 わたしたちはまた恋人となった。

 わたしたちは平平凡凡なる恋人同士として蜜月を謳歌していった。おしなべてわたしたちの体験した物語を神霊と魔王との契約どおりに此処に揮毫することとなった。これがわたしとあなたが体験した物語の全貌である。で賢明なる読者諸賢は疑心暗鬼を生ずるかもしれない。ひつきようふたたび誕生してもまたわたしは死刑を宣告されるのではないかと。杞憂であろう。既に『第一の宇宙』とではごうながら相違するかいこうを果たしたわたしたちの運命はりまた相違するものとなるからだ。のみならずからの人類の歴史もあのろーていこくの愚行や無政府状態の世界という『未来』も完璧に相違したものとなるはずである。それを選択するのはえいごう不滅の神霊か極悪無道の魔王かいずれかの言説をしんぴようするかによる。『運命に嚮導されて平和にくらす』のか『自由を獲得して闘争してくらす』のか。すべてはるかなる『いまここ』を生きている『あなたたち』に委ねられている。

 遙かなる『いまここ』でわたしたちは未来をえらべるのだ。

 はるかなる『いまここ』へこの物語をささげたい。


〈了〉

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『遥かなる遥かなる遥かなる現在(いま)此処へ』中篇小説 九頭龍一鬼(くずりゅう かずき) @KUZURYU_KAZUKI

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