恋愛スキャンダルが報じられたアイドル。
帰る家はどこにもない。帰りたくない生みの親がいる袋小路しかない。
恋にかけた希望はあっさり途切れ、あとには自分が全部悪いことになった契約だけが残る。
「契約を破ったのだから何をしてもいい」
そうかもしれない。何しろそういう契約だ。
けれど、では、そんなものがあっさりと成立してしまうことそれ自体に非はないのか?
それに金を払い、大した悪気もなく支持し維持し続けているそっちに、責められる余地はひとかけらもないのだろうか?
からからに干からびた疑問に選択肢が転がってきた時、最後の舞台の幕が上がる。
握った操縦桿、絞られるトリガー。
骨肉は弾け、鮮血が噴き出す。断末魔があがる。
あっさりと積み重なっていく絶命の光景、それが分厚くなるほど反対に縮まっていく、自分の残り寿命。
どちらもたいして響かない。
爽快感も恐怖も格別ともなわないまま、ただずっと息をしている気持ちが呟きつづけるだけだ。
死ね。
死にながら不平を叫んで、当たり前の帰結としてそれが報いられないまま終われ。
こういう終わらない夢がそのへんに転がっていてもいい。
世間知らずを承知であえて言う。
プロも含めて、ここまでの文章を書ける作家がどれほどいるか。
話の筋は簡単だ。
スキャンダルをパパラッチされたアイドルが逆切れして悪魔と契約してロボットに乗って人類を虐殺する。
脈絡もヤマもオチも成長も救いも、何もない。ただ一人の少女が喚いて暴れて、疲れ果てて眠り込む、それだけの物語。いや物語とすら言えるかどうか。唐突な終わりは(それこそが主人公=作者が狙った結末なのだとしても)、納得しきれないモヤモヤを心に残す。もっと書けるだろ。もっとやれるだろ。話だってこれからいくらでも広げられただろうし、もっと前向きで、さわやかで、多くの人に受け入れられる結末にだってできたじゃないかと。
しかし作者はそれをしない。
物語だからと、結末に安易な納得を求めない。
世界はどこまでも非情で、格差はどこまでも残酷で、声を上げても、力を手にしても、そのことで何かが報われることなんてなくて。
「それでも」
なお抗わなければならないのだと。
どれだけ傷ついても、どれだけ傷つけても、常識とか世間とかに唾を吐いてでも、自分を貫くことが正しいのだと。
そんなテーマを、一人称とも三人称ともつかないどこか乾いた文体で、愚直に不器用に、しかし絶対に妥協することなく描き切る。
そのスピード感と密度に、ぜひ酔ってほしい。
この物語が、ひとりでも多くの人に届くことを願う。