第9話

 結局、コハナとゼンと戯れながらも、ゼウォルからさらに色々な話を聞いた。

集落の成り立ちから、昔話、何で他の犬獣人達とは姿が違うかなどなど。

 話の切れ間がなく、本当に、暇だったんだなということが分かる程度に、ゼウォルは燥いでいた。

 そうして、ゼウォルの話に関して、聞き役で徹した後、今度は陽介側から説明を行うことになった。とはいえ、話す内容といえば、特に長いものでもない。

 

 自室で、ゲーム制作中に光に包まれて、森の中。

 芋虫に襲われたのをギーベンに助けられた。

 犬獣人族の集落へ案内されて、今ここ。


陽介は、村長のゼウォルへと、諸々の事情を三行で説明した。


「光に包まれて、森の中にの。何とも面妖な話よな」

「ええ、気が付いたら森の中でした」

「遠くの場所へと転移する魔法があるというが……見たこともないから、何とも言えぬなあ」

「そうですか……」


ゼウォルは見た目では測れぬほどに、永い生を生きているとの話だった。故に、もしかしたら、とも思ってみたが、心当たりがないようだ。


「ふむ、ではヨースケは、森の入り口から入ってきていないのか」

「そうなりますね」


「不法侵入だー!」

「捕まえろー!」


 もふもふのコハナとゼンが、ヨースケの両脇へと抱き着いてくる。ぐしゃぐしゃと二人の頭を掻きまわしていると、ゼウォルは、さもありなんと、話を続けた。


 偉大なる森には、犬獣人の集落のほかにも、様々な種族の集落が点在しているら。昔のお話に出た九つの獣の王をルーツに持つ種族たちの内、犬獣人族を含めて、猫獣人族、猿獣人族、鹿獣人族、四つの種族が暮らしている。


 四種族の内、猫獣人族の集落パッフェルは森の入り口側に存在していた。

そこでは、来訪者を歓迎する気風の良い猫獣人族たちが住んでいる。

しかし、それらは表向きの顔であり、猫獣人族たちは、実際のところ森への侵入する者へ意向を確認して、害意を持つかなどを見極める役割を担っているようだ。


 基本的に、古来より偉大なる森という場の信条は自由。故に、森への立ち入りに関して、明確な規制などはない。ただ、監視の目を光らせる程度のことは行っているとの事である。


「ヨースケはパッフェルに訪れていないとなると、眼が付いていない。森を出るときに少々厄介かもしぬのお」

「うう、どうにかなりませんかね」


「よしよしー」

「大丈夫大丈夫ー!」


 ゼウォルはやや考えるようにして、腕を組み、眼を閉じる。

直ぐに返答がないため、ヨースケが、どんより肩を落としていれば、幼い犬獣人たちに頭を撫でられた。

 

 なんという良い子達だろうか。

 

 お礼とばかりに、ヨースケがコハナとゼンの首筋をごしょごしょと、撫でまわしてやると、「んー!」と気持ちよさそうに、身をよじった。

 二人とも、もっともっとと、尻尾をふりふりと振って、強請ってくる。

 守塚家の愛犬であるトシローを骨抜きにする妙技が役に立つとは、人生何が起こるか分からないものだ。


「あい分かった。とりあえず、我の名を持って猫獣人の長へと一筆書こう。その書状を持って、猫獣人の集落へと赴けば大丈夫じゃろう」

「あ、ありがとうございます!」


 陽介は頭を垂れて、ゼウォルへと礼を言った。


 犬獣人達は、本当にとても良い方ばかりである。見ず知らずの他種族、しかも、陽介自身が言っていいのかわからないが、このような怪しい風体の輩に対して、疑うことすらせずに、良くしてくれるとは。


「気にせずとも良い。古来より犬獣人族と人族とは深く友誼を交わしたとされているからの。今では、この地へと人族が訪れるのは稀じゃがなあ」


「私、人族は初めて見たよー」

「僕も僕もー」

 

 ゼウォルの言葉を聞いて、コハナとゼンに懐かれながら、陽介は、少しもやもやと引っかかっていることがあった。

 集落内を歩いている時でも、珍しいものを見たという奇異な視線をいくらか、受けていた。人族は森の中には居ない。外に出れば、居るのではないか、と思っても居たが、この話しぶりからするに、ライオネイブル領内には、ほとんどいないのではないかという、疑問が浮かんでいた。


 ライオネイブル領。その大陸に何があるか。何を設定したのか。


 偉大なる森、という大森林は設定を作っていたものの、明確な場所を設定していた記憶はない。

 ただ、ライオネイブル領は、その名を関する、王都ライオネイブルという大きな都市部が存在したはずだ。王都という名に違わず、獅子王という存在が領を統べているという設定があり、その都市を中心に、名もなき街、村などが点在する。


 主要イベントは、王都にある闘技場での大会などで、様々な敵と戦えるようにしたり、NPCに獣人族が多いというような設定を施した。

 しかし、人族が居ない、もしくは少ないという風に設定をした覚えはない。


「うーん、謎だ」


 一応、アルトロメアの主人公は人間族だ。果ての果ての島に住んでおり、父親代わりのお爺さんに育てられて、鍛えられ、物心ついたころから、外の世界へと憧れを抱いている少年。色々あって、魔王を打ち倒す旅に出るという、なんというかどこかで聞いたことがあるような始まりを経て云々かんぬん。


「ねぇヨースケどうしたのぉ?」

「お話終わったなら、遊ぼう!」


「……うん、まあそうだな。遊ぼうか!」

コハナとゼンに纏わりつかれて、陽介は一度、思考を中断する。難しいことは、後で考えておこうと、思い立ち、今は幼い犬獣人達と全力で遊ぼうとすると。


「我も遊ぶぞ!我も!」

 ゼウォルは、白い犬獣人の姿から、むくむくと大きく姿形が膨れていき、最初に邂逅したのと同じ四足歩行の巨大な白い犬となった。

  

 後々、ゼウォルから聞いた話であるが、犬モードが平素の状態ではなく、感情が高ぶってしまったり、身に危険が及んだ際などに、変化するらしい。無論、ある程度自由にコントロールできるらしいが。


 ぶおんぶおん、とゼウォルが尻尾を左右に振ると、物凄く物騒な音を立てて、突風が起きた。ぎしぎし、と床が鈍い音を立て始める。


「じーじはしょじょー書くんでしょー!」

「そうだそうだー!」

「むうう。我だけ仲間外れはずるいぞい!うぬうっ!」

 

 ぶうぶうと、コハナとゼンが言いやるのを、ゼウォルは聞き入れずに体躯を起こした。同時に、ばきんっという一音が盛大に響き、ゼウォルの前足が床を突き破っていた。


「あーあー、じーじーまた壊したー!」

「ばーばに怒られるよー!」

「あわわ、あわわわ!」


 ゼウォルが慌てふためきながら、足を上げると、加重が反対側へとよりかかってしまう。つまるところ、反対側の床も同様の末路を辿ってしまった。


「じーじ、早く戻ってー!」

「そうだよーまず戻ってー!」


 これ以上被害の拡大をしないようにと、コハナとゼンが言うと、ゼウォルが人型へと転じる。直ぐに、白い人型の犬獣人となったゼウォルが、床へと手を突き、四つん這いになって項垂れた。


「うううう、やってしもうた」

「じーじ、大きいのはかっこよかったけど、これじゃあばーばに怒られるよー」

「ばーばは優しいけど、怒ると怖いよー」


 コハナとゼンが、ゼウォルを慰める、というよりはとどめを刺すようなことを言うと、一層、小さくなってしまう。

 陽介は一連の流れを何も言う間もなく、見ていることしかできなかった。

床に空いた大きな穴は、修繕するには時間が掛かりそうである。陽介自身に、そのような技術もないため、どうすることもできない。

 けれども、頭を垂れて、項垂れているゼウォルの姿を目にすれば、とても不憫に思い、何とかできないかと考える。


「これがクリエイトゲーミングならば……」

陽介は視界の左端にある+マークへと触れた。


- ファイル 編集 モード スケール ツール ヘルプ 

📓 💾 ✁ © ↶ ✎ ■ ● ▶ データベース


クリエイトゲーミングのトップ画面。

モードの部分へと指を這わせる。


マップ描画モード イベント作成モード


二つの選択が現れて、描画モードを選ぶ。


すると、薄ぼんやりとした格子状の糸が、壁を床を天井へと張り巡らされていく。


未だに、ゼウォルが落ち込んでいるのをコハナとゼンの二人は慰めているために、陽介が何をやっているのを見ているものはいない。


「なるほど、こうなるのか」


クリエイトゲーミングでのマップ作製時、PC上では縦×横の設定値がされた面に、グリッドと呼ばれる格子状で区分けされていた。

その区分けした部分へと、マップの下となるマップチップを置いていくことで、マップは完成していくのであるが、今、陽介の視界に映っているものは、マップそのものであるようだ。


本来ならば、マップチップは画面の左上部に様々な種類を選ぶような形で配置されているが、現状は、何のマップチップも選ぶことができない。

しかし、視界全てがマップというのであれば、別の異なる方法で、マップチップを選ぶことが可能である。


「この部分を選ぶ。🄫を押す」

床の壊れていない部分を見つめ選びながら、🄫ボタンを押した。


床の壊れていない一部分に、薄暗い影のような色が付く。

所謂、選択をしているというサインであるが、コハナもゼンもゼウォルも、気がついてはいない。


「✎を選ぶ」

✎モードは、マップを描く時に使うものだ。あらかじめ選んでいるマップチップを、マップ上に反映させる。故に、壊れて穴の開いている床部分を、床の壊れていない部分へと上書きすることができるはずだ。


 本当に可能なのか。どきどきと、心臓が高鳴っていた。

陽介は、床の壊れている部分を見つめて、✎での上書きを意識してみると。


「マジでできちゃったよ……」


床の穴は、綺麗に塞がって、まるで何事もなかったかのようになっていた。


「あれー!穴がないよ」

「わ!本当だー!」

「なっ何ぅっ!」


 床の穴が綺麗に消えたのをコハナが発見して、ゼンとゼウォルがそれに気が付く際、もう一方の穴を陽介が元通りに直すところだった。


「えっと、こういう感じで大丈夫ですかね」

 陽介が言いながら、-マークに触れて、+へと変える。視界上から薄ぼんやりとした格子が外れた。


「すっごーい!」

「わー!」

「ななな、なんという奇跡じゃ!」


 壊れた部分の床をばしばしと叩きながら、輝かしい瞳で、陽介を見やるコハナとゼンの二人と共に、ゼウォルが何やら慄きながら、手を合わせて拝みだす。


なかなかの反応であるなと考えながら、陽介はかなり別のことを考えていた。


あ、これやばいチートじゃね、と。

















 








 








 

 

 







 





 

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ゲームを作る感覚で -ion @arukariwater

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