進物

水円 岳

進物

伊佐姫いさひめさま」

「なんじゃ」

かえでどのから進物が」

「進物? 違うであろう。いつもの嫌がらせであろうて」

「嫌がらせにしては大層な……」

「それはそうよ。貧乏姫に己の富をひけらかすのが、あやつの趣向じゃ。ほんに嫌味なやつよの」


 楓姫の下男が荒屋あばらやの軒先に投げ出していった木箱。その荒縄を解いて蓋を開いた下女のあずさが、中を覗き込んで驚嘆の声を上げた。


「素晴らしい実海棠みかいどうでございますよ」


 あやつがそんな上物じょうものを寄越すものか。どれ。


からいがと詰め合わせておるのう」

「あ……」

「埋め草は、病葉わくらば新嘗にいなめで捧げた稲穂の籾殻じゃ。老残と残滓のこりかす……か」


 梓が、くたりと首を垂れた。


「実海棠は傷むとよく匂うからのう。鼻で食せと言うことよ」

「ここまでひどく当たられると……」

「なに。愚か者は捨て置けば良い。刻んで甘葛あまづらを足し、あわと炊けば極上のかゆじゃ」


 口角を上げた梓が、ごくりと喉を鳴らした。


「では早速」


 箱の中に手を入れて比較的傷みの少ない実を取り出した梓は、いそいそと台所に向かった。


「大儀じゃが仕方あるまい。どれ、返歌を書くか」


 礼など返したくはないが、返さぬと後で何を吹聴されるか分からぬからの。



 茜さすまろき実既にうつぼ

  みたるのちはただ秋の宵



【 了 】

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進物 水円 岳 @mizomer

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