無色の虹は白色

紅蛇

キラキラしているのは、私じゃない。

 茶色くて、地味な髪が光に照らされるだけで虹色になるの。肌も、布も、どんなものも虹色に輝くんだ。知ってた? みんなキラキラしてる。凄い。

 光が反射したから、そう見えるのかも。目を髪で覆って、ヴェールみたいにして、透かすと、虹色になる。あまりに近くて、光が丸く見えるの。

 とっても綺麗。あなたも、凝らせば見えると思う。



 光で視界がぼやけて消される。背中で太陽の暖かさを感じながら、指の痛みと戦い、パソコンに頭から飛び出た言葉をタイプしていく。

 迷い、戸惑い、微睡み、脳内で声が木霊する。

 太陽はいつの間に私のいた定位置から、日差しの位置を移動して、台所を照らしていた。

 移動、動く、ムーブ、ムーブメント、仕事、営み、生物、生命体。


 私はいつもここにいて、どこにもいない。君はどうかね?

 どこにいるのかわからない読者に聞く。

 

 私はいつでもどこでもそこでもあそこでもここでも、私でいる。

 なんていうのは嘘で、本当はどこにもいない存在なんだ。

 漂い、浮かび、赴く言葉で思い出す。あ、私は誰なんだろう。


 太陽が動くのは、私の心臓が振動するから。どくんと脈打ち、鞭を叩きつける。嘘、無知のこと。私は何も知らなくて、知りたくても知る方法がわからなくて、無知を見せびらかして無秩序にする。


 世界はいつもそこにあって、私もそこにいて、どこにもいなくて、寂しい。

 私は誰なのか、君は存在するのか、香りを忘れ、声の出し方を懸命に思い出す。

 

 私のいる街ではいつの間に、蝉と肌を焼ける日差しが消え去り、女性で表される秋空へと変化した。変化、変態、変身、返信。

 言葉は自分の奥底から湧き出て、グツグツ煮込まれ、鍋底で沸騰して水蒸気へと変わっていく。液化はしない。ただの気体。ぷかぷか漂い、蚊を潰すようにぱちんと破裂する。


 君は私の何も知らなくて。私も何も知らない状況だ。

 私は別にそれでもいいと思っていて、それじゃあ駄目だとも思っている。


 蝉と風鈴の涼しげな音は、どこへ行けたのか、知っているかい?

 それはね、私のお腹の中。食べちゃった。思い出と共に、美味しく食したの。

 水素は一番軽く、私を浮かして雲まで連れていくの。

 雲はきっと綿あめみたいな甘さは持っていなくて、水分が蒸発する匂いの味がする。これでもわからなかったら、虹色に光る糸屑でも口に含めばいい。私はその味を知らないけど、きっと誰かが試すんだ。


 病院は不快な香りに包まれていて、大きい病院は特に、死の香りが隣り合わせにある。嫌いな匂い。生はいつでも性と共にあり、私は不快さを表現する表情で、歩き去る。ムカつき顔の人が堂々と歩いていたら、私ではなく死神だから、笑ってやって。私は私ではなく、ただ、いつ来るかわからない彼らに微笑みかける。


 金木犀が散りさったのは、私が好意を抱いたからかもしれないと、窓辺に咲く百合に嫉妬する。あいつらは不快なもの。不快。不快。不快な香りが全身に纏わりつく。嫌い。

 さっさと桜が咲く季節になって(その前に梅が咲かないと)、紫陽花が道を彩る日になればいいんだ。私は青紫色の光に殺され、倒れこむからさ。


 そろそろ背中で射てつく日差しが辛いから、私は座り込んでいた台所から動こうと思う。また、定位置に戻り、作業に戻る。命がある限り、言葉が湧き出る限り、ここにいる。

 これを読む物好きは、誰だろうね。私は何一つ知らないまま、自分の言葉を忘れていく。


 ミシンで刺繍をするように、電波を通じて放射線を描くんだ。

 好き、嫌い、普通、笑い。私はここで、フェイドアウト。

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無色の虹は白色 紅蛇 @sleep_kurenaii

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