出会い3
「一人で淋しかろうと思って怜奈様が桜に会いに来てあげたよ」
「助かるよ。でも怜奈も私と思ったより席が離れて淋しかったんでしょ?」
あはは、バレた?とでも言いたげな表情をしながら、肩にかかる髪先をクルクルと右手で回す。昔からこの癖は変わらない。何かしら自分が図星を突かれた時は、決まって髪先をいじる。
「別にいいじゃん!悪い!?」
「誰も悪いなんて言ってないよ~」
そんな私たちはいつも通りの会話を交わし、新クラスの話をずっとしていた。
担任のことはもちろん。時間割だったり、授業担当の先生が誰になるかなど二年生らしい会話をしていた。突然知らない先生の授業を受けるというのは、スタイルが変わることが多いので正直苦労する。だが今まで知らなかった先生の性格や癖を楽しめるということに関しては、胸に期待を寄せていた。
そうしてしばらく喋り続けて数十分。
教室の中はすっかりクラスメイトで溢れかえり、みんな自分の席に座っていた。見た限り、一年生の時に仲良くしてくれていた子は別の教室に入っていったらしい。その事を少し残念に思いため息をつくと、斜め前辺りに空席があるのを見つけた。
もう二分もしないうちに予鈴がなるはずだし、本鈴がなれば担任の先生が姿を現すというのに。事故か何かでまだ学校に着いていないのだろうか。
「でさ、その後に駅前のクレープ屋でさ…って、桜?聞いてる??」
それか別のクラスにいる友達と楽しく話していて、予鈴がなったら急いで教室に駆け込んでくるのだろうか。確かに友達と話していたら時間なんて忘れがちになってしまう。
「おーい、桜??」
その気持ちは痛いほどわかる。私だって怜奈と話していると気づけば時間なんて、あっという間に過ぎてしまう。
だがもしそうじゃないとしたら。仮に友達と話すためにここにいないんじゃなくて、友達と…。
「桜!!」
私はここでようやくずっと名前を呼ばれていた事に気が付いた。一体いつから上の空だったのだろうか。多少でなく、かなり申し訳なくなってくる。
「…ごめん!ちょっとボーっとしちゃってたみたい」
「何かあった?もしかして寝不足だったり?」
「私は怜奈みたいに夜な夜なゲームはしないよ」
「私だって毎日夜中にゲームばかりしてるわけじゃないからね?」
くだらない事で笑いあっていると、すぐ隣に設置されているドアが開く音がした。
「ごめん、ちょっと通るよ」
「あ…ごめんなさい!」
急いで椅子を前に引き、入って来た人を通した。怜奈は机の正面でしゃがんで話していたので、特に動く必要がなかった。そして私の左側を通り過ぎると、彼はさっきまで空席だった場所に向かっていった。
既に教室にいた男子の背が高かったせいか、多少背は低く見えた。
そして先程かけられた声。とても綺麗で透き通っていて、活舌も良く聞き取りやすい。後ろからしか見ていないが、男子とは思えないくらい綺麗な髪質をしていた。長くはないが、毛先までまとまりがありクセも見当たらず、更にはツヤもあり、ここまで綺麗な髪をした女子は早々簡単には見つからないだろう。
まだ一瞬しか話していないし、目も合わせていなかったが、何故か彼に目を奪われていた。だがどこか心に引っかかる気持ちがあり、それが解決できずにいた。
何だろう、今ではなく前に会っているような…。
「…!?」
ガタッと勢いよく立ち上がり、椅子は物凄い速度で後ろの壁にぶつかった。突然の出来事に怜奈も呆気に取られていた。その時の私は罪悪感に憑りつかれていた。
そしてそのまま無人ではなくなった席に近づいて行こうとする。だが上手く声が出せそうにない。勇気を出して話しかけなければと、ありったけの勇気を振り絞り声を出した。
「あ…あのっ!!」
ー キーンコーンカーンコーン -
それと同時に担任の先生登場のカウントダウンを知らせる鐘が学校中に鳴り響く。
私の声はそれに消し去られたのか、おそらく彼の耳には届いていなかった。こちらを振り返りもせず、ただ耳につけていた音楽の世界に引き込まれているように見えた。
もうダメだ。私は早速体力を消耗に、怜奈の待つ自分の座席に戻っていった。
初恋の手紙 霧島 菜月 @yuto1217
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