第12話 レッドブック

「先生の宇宙人説は、全てサガンの推測に基づくものではないのですか、大体宇宙人がどうやって地球に来て本に入り込んだか、具体的な証拠でもありますか?」


「宇宙人は電波望遠鏡から侵入しました」

再び、”はぁ~”と拍子抜けの声がした。


「イギリスの科学雑誌で地球外知的生命体との交信の可能性に言及した論文が掲載され、それをきっかけに電波望遠鏡による宇宙からの電波受信が盛んになりました。

それから20年後、米国のある州立大学でそれと期待できる電波が受信されましたが、しかし、それは地球外文明を起源とすることは懐疑的だったのですが・・・」


「先生、」

と学生に話を遮られた。


「それ『Wow! シグナル』と『オズマ計画』の話ですよね。『Nature』、『SETI《セチ》、惑星協会』も先ほどの宇宙人リストにありますしね」


「君、詳しいね」


「物理を専攻で知らない人はいませんよ、『オズの魔法使いのオズマ姫』まで宇宙人のリスト入りとは驚きましたが・・・」


『少しは利口な学生がいる、やっと、砂漠に柄杓で水を蒔くような虚しさから解放されそうだ』と、瀬下は思った。


理工系の学生は、イデオロギーが無い分だけ理解が早い。


「禁書よれば『Wow! シグナル』は発表された72秒間の短いものではなく、7日に及んだとされています。

信号はオープンリールテープに全て保管されました。


ちょっと前の事ですからね、大容量の記憶媒体それしかありませんでした。

72秒間と公表されたのは、その内容が意味をなすものと判断された部分についてのみです。


それ以外は無規則と思われましたが、ハンガリーの数学者が一部の解析に成功し、複数のボリュームに渡る本にまとめました。


それがレッドブックと呼ばれている地球に托卵された最初の宇宙人です。

しかし、残念ながらレッドブックは一般に公開されまま国家重要秘密になりました」


「ハンガリー政府の圧力ですか?」

「アメリカです。その数学者が移民の条件で持ちだしました、グリーンカードと交換ですね」


「先生、最初の托卵は『Wow! シグナル』からですか、『Nature』の創刊はそれよりかなり前だし、『オズの魔法使い』に至っては100年以上前の作品ですよ、知っていますか、改竄は不可能でしょう?」

物理専攻の学生がクレームを付けた。


「托卵とは、既存のものを利用する生態文化です。

抱卵、育雛する文化が存在しなければ宇宙人は遣って来ない、初めに本、文明文化ありきです、改訂版翻訳の際、原本を歪曲するのです。時系列は無視して構わないでしょう」


「宇宙人は、托卵できる文化を求めて宇宙に電波を発信しています。

それを受信した文明は、文化を破壊され宇宙人化して行きます。

それが、生命体であろうと無機物あろうと何でも良いのです」


「この広い宇宙でも光の速度を越えて飛べる船は存在しないのです。

アインシュタインの偉大さが判りますね、宇宙人ですら唯一、光と同等の速度を持つ電波を利用するしかないのです」


「レッドブックが何光年先から送られてきたかは判りませが、仮に千光年彼方とすれば千年前の過去の宇宙人ということです。二千年前の蓮の種が開花したこともあったのです。過去の宇宙人が再生されても何ら不思議なことでもないでしょう」


「ねぇ、ワォ・シグナルとかオズの魔法使いとかさっぱり意味が判らないだけど、説明してくれる?」

先ほどの軽口を叩く女学生がまた隣の学生に口を尖らせた。


「俺に聞くなよ、そんなの映画でも観たことねぇよ、奴に聞けよ」

と『Wow! シグナル』に詳しい物理学生を指差した。


皆同様の想いだったようだ、彼は一身に注目を浴びた。

瀬下は、注目されている学生に説明するようにと手で促した。

一人ぐらい学生を味方に付けた方が便利だと思った。


彼は立ち上がって喋り始めた。

「オズの魔法使いに登場するオズマ姫が持っている本には未来に起こる事が書かれていて・・・」


彼の薀蓄と学生らの質問がしばらく続いた。

瀬下は静観した。


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宇宙人が遣って来た 睦晴 三目 @kuryuk

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