第11話 家畜の幸せ

「先生、話が矛盾しています。平和、非暴力主義の宇宙人が侵略するとは思えません」と平和主義を唱える女子学生が立ち上がった。


「善を説く者と善人とは異なります。

相手にそうあって欲しいと望む事と、自分がそうである事とは別の話です。

宇宙人は、人がそうあるように誘導しているだけです。

戦争の悲惨さは、映像や写真、書籍などの中にあります。

平和主義者はこれらの創作物で育てられます。

それらの多くは、体験者の生の言葉は少なく、作家の主観で創作されたものです。

語部に至っては、更にたちが悪く聴衆の反応に応えて話を誇張したり、過剰な演技で話を演出しています」

瀬下は冷ややかに言った。


「悲惨な真実を伝える書物や善意の人達が、宇宙人の捏造と言うのですか!!」

女学生の怒りに満ちた声が響いた。


『平和主義者は、自分を善だと思っているから始末が悪い、平和にケチを付ける輩は許さないと言う事か、なるほど、この手の連中の眼にはサガンも軍国主義のナショナリストに映っただろう』と瀬下は不快に感じた。


「他は知りませんが、リストにある書籍は捏造です、宇宙人にとって戦いの文化は侵略の妨げになるので好ましくありません、貴方が今私に対して怒りをぶつける事も宇宙人の望む文化ではありません」


「平和の記録を誹謗する人を非難するのは当然でしょう!!」

「平和の為に争うのですか、それも宇宙人が消滅させたい人の文化の一つです。

宇宙人が望む文化は、戦いへの完全放棄です」


単純な学生が吠えた。

「平和主義で人類を軟弱にした後、攻め落とそうという寸法ですね、戦うぐらいなら奴隷になっても良いと言う輩もいるぐらいですから、その手の洗脳はありえますね」


「そんな幼稚な話は、していません。宇宙人にとって人類は家畜です。

家畜に牙はいりません、ただそれだけです。

人が大切に家畜を育てていることと同じです。

家畜に知恵があれば、その行為が偽善であり、自分たちが、肥るためだけに管理されていると解ります」


「先生は農家を馬鹿にしているのですか、私の父や母は、愛情を持って育てています。偽善ではありません」酪農家の娘が吠えた。


「農家や酪農家もビジネスの一つです。

美化する必要はありません。

狼がせっせと羊に餌を運んでも、病気を治療しても、他の獣から守り、世話をしたとしても、それは太らせて食う為でしょう」


「私の父や母は狼ですか!!」

「家畜から見ればそうなります」


「家畜にそんな知恵がある訳無いでしょう!!」

「家畜を感情の無いもの扱いですか、冷たいですね、とても愛情を注いでいるとは思えませんが、貴方は話の本質をとらえることを勉強した方が良いですね」


「・・・」


「宇宙人が人類を平和に導くのは彼らの都合です。

人を温かく見守って平和に成長させても、最後にその肉を喰らえば、狼と同じです」


「宇宙人は人間を食べるの?」

また、あの軽口をたたく女学生だ。


「話を聞いていませんね、食べられているのは文化です」

「宇宙人は人類を彼らの都合のよい家畜にする為に教育しているのです」


学生たちはしばらく沈黙した。


最初に宇宙人を指摘した女子学生が言った。

「先生、その宇宙人の教育はもう始まっていると思います」


「そう感じますか?」

「感じるわ、先生にね」

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