第10話 裏切り者のリスト

『ここいらで刺激が必要だな』

瀬下は、禁書を公開するつもりは無かったが、学生らを少し脅かしてやろうと思った。


「これが禁書に書かれている宇宙人リストです」

皆、スクリーンに注目した。

「これらの書物中に宇宙人は存在します」

スクリーンに数多くの本の名が連ねられた。


学生らの戸惑いは更に深くなった。


瀬下は、委細かまわず進めることにした。


「そして、使徒と彼らの組織・・・、これらが宇宙人を抱卵、育雛して成長を助けている、云わば人類に対する裏切り者のリストです」


過激な言葉を使い学生の心を揺さぶった。


著名人の名を挙げると弱いものだ・・・、彼らの反応は瀬下を期待を裏切らなかった。


やっと講義の内容が現実に投影できたようだ。


幾つかのグループができ、雑談が始まった。


「禁書に成る訳だわ、こんなこと書いたら訴えられるに決まっているじゃん」


「プライバシーの侵害でしょう、どの宗教団体の信者であるとか、あの秘密結社のメンバーまで名前が上がっているわ」


「でも、あの監督が宇宙人の手先ってなんか信憑性があるわね、そんな映画ばっかりだもの」


自分の知識の範疇になると人は騒がしくなる。

知っている事を喋り合っているだけで、論理的結論に達することは無い。


「先生、これ奇怪しいです。掲載されている人物が皆、人類に貢献した人ばかりです。彼らは、独裁者や犯罪者ではありません。組織も、慈善活動や人権擁護団体です」


「そうですね、偉人、善人、慈善団体ばかりですね、彼らは人類を或る方向に導いているのだから社会に貢献していると評価されるのは当然でしょう」


「ある方向って・・・、何処へ、ですか?」

「争いの無い平和な世界」


あちらこちらで拍子抜けした声がした。


「宇宙人は人を平和主義に導く。禁書にもそうあります」

瀬下は念を押した。


「先生、その『意志を持った文化』、あ、いや、宇宙人は地球を平和にしてくれるのですか?」


「そうです!!」


生徒の質問が矢継ぎ早に来た。

「それなら宇宙人様様じゃない、じゃ、サガンは平和を否定しているのですか?」

「そうです。サガンはその種の平和主義を否定しています」


「それじゃサガンの方が悪い、宇宙人は良き先輩、神様ですよ」


「何故、宇宙人はわざわざそんな面倒臭い事するのよ?」

また、あの女子学生が隣に軽口を叩いた。


「神様だからだよ、ほら、ヤハウェがモーゼに十戒を授けたろ、あれも石のタブレットに書かれた文章だ、宇宙人の正体は神様のメッセージ、声なんだよ」

「詳しいのね」

「このあいだDVDで観たから」

「で、ヤハウェて、誰?」


彼女の周りで笑いが起きた。


瀬下は、その会話に便乗した。

「その解説に関しては、当たらずといえども遠からず、です。

十戒を宇宙人に例えれば石版の中に存在していた事に成ります。

そしてそれに感銘を受けモーゼは使徒であると解釈できます。

それで間違いではありません。でも、そこまで歴史を遡りません。

宇宙人の時系列に関しては後で話すことにします。

ここで断っておきます。

宇宙人が人類を平和主義へ導くのは、彼らの都合です。

映画では、人類は容易にその都合を受け入れ死滅しました」

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