第9話 托卵

「映画は宇宙人の侵略を描いているのだから、そう素直に受け取ればいいです。無理に比喩として捉える必要はありません」


「小説『宇宙から来た獣人』は、人文学者でもある著者サガンの『侵略する文化』という論文が基になっています。これも禁書指定です。

その中でサガンは、宇宙人を『意志を持った文化』と定義しています」


「便宜上、これからサガンの定義を前提とし話を進めます。

宇宙人とは意思を持った侵略する文化、

サガンの論分と小説を禁書、

宇宙人に感化された人間を映画の通称通りに使徒とします」


「サガンの禁書によれば、宇宙人よる人類既存文化の破壊は既に始まっています」


宇宙人が地球の文化に托卵し、孵化した雛がその中にある邪魔な人類文化の排除を始めているのです」


「何の話?」

タメグチの女子学生が隣の男子学生に訊いた。


「カッコウの例えだよ」

「カッコウが宇宙人なの?」

「違うよ、カッコウの雛と宇宙人の行動は同じだと言っているんだよ」


「何をするの?」

「巣の中の卵を全部殺すのさ!!」

「酷い・・・」

「テレビで観たけど、まるで悪魔さ・・・、孵化したばかりの雛が周りの卵をみんな巣の外へ落としてしまうんだ」


「じゃ、宇宙人が卵を殺しているの?」

「馬鹿だなぁ、卵じゃないよ、僕らの文化だよ」

「・・・どういう意味?」


瀬下はさらに続けた。

「宇宙人は、地球の知的記憶媒体の中に居ます」


「例えば!!何に、ですか?」

懐疑的な顔をして学生が質問した。


「書物、コンピュータ」


「本の中に宇宙人が居るのですかぁ・・・?」

学生は、呆れた声を発した。


「本、コンピュータ補助記憶、記録できる媒体なら何にでも存在できます」

「紙に書いた物やプログラムが生命体、ありえないでしょう・・・」


「定義を覚えていますか、生命体ではなく文化と説明しました。それも意志を持った文化と・・・宇宙人は文字に姿を変えています」


「はぁ~、文字に意思があるのですか・・・」

「小説を読み共感できたなら、一時的にせよ作家の意志を受け継いだ事になります。

もし、宇宙人を読み共感を覚えたなら、その人の中で宇宙人の一部が再生されたことになります」


「写真や絵画、芸術作品においても同じことです。

人類の文化でも類似する力はあります。

何千年後でも作者の魂は蘇ります。

文化とはそういうものです」


「人の意思は時人体外でも存在できると考えているのですか?」

「疑問を挟む人の知能を疑います」

「・・・」


学生たちは困惑していた。

瀬下が何処まで真剣に話しているのか判らなかった。


サガンの宇宙人説は、最初の定義を認識できなければ先へ進めない。

瀬下は、理論を現実に投影しなければ理解できない学生達に歯痒さを感じた。




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