第8話 移民排斥と反グローバリズム
「どうでしたか?」
瀬下は学生達に感想を求めた。
「獣人と言うよりも『宇宙から来た昆虫人間』のほうがピッタリだと思います」
前列の男子学生が笑いながら言った。
「そうですね、邦題をつけた人にセンスが無かったのでしょう」
瀬下はこの生徒を一瞥した。
「他に?」
数名の手が上がった。
中央最前列の生真面目そうなメガネを期待を込めて指名した。
「先生、これって映像的比喩ですよね、外国人に支配されてゆく国家への警告では?」
うんうんと同調する空気が流れた。
「宇宙人を外国人に置き換えればそう見えます。当時の政府も同じ考えで、移民労働者排斥運動を煽りかねないナショナリズム的思想と懸念し、上映禁止にしました」
「確かに君の指摘通り、異民族間文化衝突を宇宙人と地球人に置き換えて描いている映画にも思えます。
当時は、ネイティブ、移民マイノリティーの権利がクローズアップされている時代でもありました。
安価な移民労働者を欲する企業と政府が癒着していれば、移民排斥論者は邪魔であったでしょう。
しかし、原作を禁書にし、映画を上映禁止にするほど制裁を課す必要があるでしょうか、そもそもこの映画が移民排斥論に繋がっていると、私には、思えません」
メガネの学生が言った。
「獣人をマイノリティーの移民扱いは少し無理があります、どちらかと言えば、グローバリズムに対する批判だと取るべきだと思います?」
「そう、少なくとも移民批判ではありません、何故か、政府の倫理委員には弱者と強者が入れ替わって解釈されています。獣人は強者として描かれています」
「何処かの国に都合が悪いから禁止にされたんじゃない!!」
と女子学生が軽口を叩いた。
彼女が口火となり色々な国の名があちらこちら飛び交った。
意見の大半はグローバル企業を多く抱える国が途上国を経済支配することへの警鐘で固まりつつあった。
瀬下は、固定概念に偏って来た学生たちに別の論点を示した。
「誰の都合に悪いかは、映画が明確に示しています」
学生らは沈黙した
しばらくして真面目そうな女子学生が手を上げた。
「・・・宇宙人ですか?」
「そうです!!」
教室中がドット沸いた。
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