第7話 宇宙から来た獣人上映

「人類の文化と宇宙人」の講義室は満席だった。


擂鉢状の教室は、生徒との質疑応答に向いている、それが瀬下がざわざここを選んだ理由である。


瀬下は、スピーチ台に両手を付き、学生が静まるのをまった。


「はい、静に、講義を始めます」

全員が一斉に注目する音がした。


講師が少々強気に出ないと静粛しない。

『大学もいつからこうなったのか、偏差値の高い此処ですらこうだ』

瀬下はいつもの事ながら不快な思いがした。


「今日は、私がここ数週間、閉じこもって研究した成果を発表します」

「それは・・・地球は宇宙人に侵略されているか?・・・です」


会場がドット沸いた。

突拍子もない題目に生徒は喜んでいる。


『受けはいいな』

瀬下は少し気分が良くなった。


「宇宙人の存在を示す公式記録は無く、未確認飛行物体は相変わらず未確認です、多分、永遠にそうでしょう」


「巷の映画では,人類が宇宙人に虫の様に駆除され、都市はUFOに破壊されます。これらの根底にある考えは、人類より遥か高度な科学文明からの攻撃です」


「何光年、或いは何万光年も離れた所からわざわざ遣って来るのですから、人類にそれができない以上、そう設定するのは必然です」


「しかし、今日、この典型的な概念を捨てて貰う為に或る映画を上映します」

「時間内に鑑賞するには少々長いので若干端折りました」


「この映画は、公開してまもなく上映禁止になった代物です。しかし、残酷なシーンも激しい性描写もありません」


「少し残念かも知れませんが安心して観て下さい」


「不適切なシーンは先生が削除したのですか?」

と学生が茶地を入れた。


「そうです。・・・」

瀬下は、無意識に笑い誘った。

こういったことも講師の必要資質になりつつある。


「鑑賞後に意見を求めます」


上映を開始し、瀬下は学生達の反応を観察した。


監督のマウリッチオ・ザンパリーニ演出は巧妙だった。

前半を喜劇風にまとめて、突然宇宙人が遣ってくる違和感を笑いで誤魔化し、

後半を次第に笑えなくなるシリアスな演出で徐々に緊張感を高めていく手法だった。


学生の表情もそれに伴い笑いから真剣な顔に変わって行った。


ある日、友好的な宇宙人が地球に遣って来る。

大々的な歓迎セレモニーの中、赤いキューブの宇宙船から登場した宇宙人は痩せ細り、カマキリの様だった。

彼らは人類との共存を望んでいた。


人類は、彼らの文明力を恐れ、共存に承諾したが、陰では彼らを獣人と蔑んでいた。


容姿的な差別を受けながらも獣人達は、人類と平和に暮らそうと勤めた。

高い知能を誇る獣人たちが地球で冨を築き、高い地位を占めるのに時間は掛からなかった。


獣人たちは地球で権力を得た。

しかし、獣人たちは地球で得た富と権力の全てを人類の幸せにのみに費やした。


時が経つにつれて獣人の善行が人の心を動かした。

獣人の住む赤いキューブ状のビルは慈善の象徴になった。


人々は獣人の崇高な文化に感銘を受け、彼らを敬愛し始めた。


人々の中から使徒と呼ばれる獣人に従属する人も現れた。


獣人の文化は、使徒の助けを借りながら静に人類に浸透して行った。

獣人の書いた小説がベストセラーになり、醜い獣人が演じる恋愛映画に人々が涙するようになった。


獣人が着ている赤い服は大流行し、醜かった獣人の姿が美しく見えはじめ、人の容姿は獣人に近い痩せた長身ほど美しいと持て囃された。


人々は獣人の思想や哲学、宗教を学ぶことに憧れ、これまでの人の文化を捨てた。


数年が過ぎたある夜、メディアから不思議な絵文字と共に機械音が世界中に流れた。

翌朝、人の心は獣人になり、人は地球から消えた。


獣人化した人類は地球で栄え、そして、さらに数千年後、新たな繁殖先を求めて宇宙へ赤いキューブを飛ばし始めた。


映画が終わった。


学生たちは困惑していた。

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