キャラクターの言葉遣いはもちろん地の表現もすべて平安文化に合わせたものとなっており、世界観が凄くしっかりしています。そのため作中で織り成される恋愛模様にリアリティがあり、自然と感情移入していました。
また登場人物が凄く魅力的。紀乃のツンデレっぽい奥ゆかしさ、藤の宮の天然のほほんでも芯の強い感じなど、それぞれの言動一つ一つに個性が出ていて、つい心の中で励ましたり、心配になったりします。特に紀乃の照れ屋で甘々な反応とか見ていますと、もうブラウザそっ閉じしたくなるくらい、読んでいるこっちが恥ずかしくなります。
平安時代の文化的背景や和歌について知らなくても、純粋にラブストーリーとして引き込まれます。気になってはいたけど、その点で敬遠されていたという方も、ぜひ読んでみてください。
紀貫之の末裔である紀乃は、名門・久の宮家復興のため、乳姉妹である藤の宮を玉の輿に乗せようと奮闘する。そんな中、自らも宮中女性たちの憧れである殿方から思いを伝えられることとなり……。
平安後期と思われる時代の都を舞台に貴族たちの恋と様々な思惑が絡み合う、純和風ラブストーリーです。
淀みなく流れる雅やかな地の文、一方で会話文は現代風に振り切っていてコミカル。そのバランスが絶妙で、読んでいて楽しいです。また、キャラクターが魅力的。藤の宮にはあれこれ指導するものの、自分も恋愛に関しては経験がない耳年増で、殿方からの求愛に戸惑うばかり……そんな紀乃をどんどん好きになっていきます。
この時代の貴族らしく、思いのやりとりは和歌で行われるんですが、それがまた上手いです。五七五七七に秘められた恋心。その中で季節が巡り、花が咲き、都の空に月が照る。特に緊張感漂うクライマックスは見事。
新春に読むのにぴったりな作品、今のうちにぜひ!