You WIN!! You WIN!! You WIN!! You WIN!!

ちびまるフォイ

今日は選挙ですってね

You WIN!!


「っしゃーー!! 見たかこの野郎!

 このゲームで俺に勝つなんて100億光年早いんだよ!」


得意な格闘ゲームで勝利した俺は画面のネット回線を通じてつながった対戦相手を毒づいた。

これぞ勝利の特権。


「たかし……もう引きこもって3年……いい加減に出てきて……」


「うっせーよ! ババア!! 黙ってろ!!」


「それじゃ――」


「ああ、飯は部屋の前に置いておけよ」


「お母さんも引きこもります」

「なんで!?」


慌てて部屋のドアを開けると泣き崩れている母がいた。

母の頭の上には文字が浮かんでいた。



You WIN!!



輝かしく光るその文字と対照的に俺の頭の上には……。



You Lose...



と情けない文字が出ている。


「な、なんだこれ……どうなってる。

 まさか! 俺が部屋から出たから母親の勝ちってことか!?」


俺が引きこもっているうちに世界にはこんなにも変わっていた。


「ふふふ、たかし。お母さんの勝ちね」


「ぐっ……! 図ったな!!」


「せいぜい悔しがるがよい。その悔しさが貴様の就職活動の糧となるだろうよ。」

 さぁ、おとなしく我が軍門(しょくたく)にくだるがよい!!」


「キャラが……変わってる……!!」


「これも勝利のなせる業だ!!」


ひきこもり生活を脱した俺は買い物へ出かけた。

タイミングよくタイムセールが始まったので食料品も安く買えた。


「お会計、1500円になりまーす」

「お、予算よりだいぶ安い」



You WIN!!



俺の頭の上には勝利の文字が表示された。

その後にリザルトも表示されて累計の勝利数が記録される。


1勝1敗


「こんなに小さなことでも勝敗判定されるんだな。

 よし、どんどん勝利を貯めていってやる!」


その日から俺は今までも引きこもり負け組生活を取り戻すように

勝利に執着し、勝利だけを稼ぐ生活を行っていった。


「つーか、数学とか学ぶ必要なくねー? ぎゃははは」


「君たち、本当にそう思ってるんだね」


「なんだよあんた。生きてくうえで必要ねーし。

 俺たち大学とか進学も考えてねーから勉強する必要ないっしょ」


「いいかい、君たち。企業が見ているのは勉強ではなく

 "なにを勉強しようとしたかの過程"なんだよ。

 数学をいらないと捨てた人間に、そいつが理解できない仕事を任せられるか?」


「それは……」


「できない。狭い視野で"いらない"と判断したらそいつはやめてしまうからだ。

 はい論破」



999勝1敗


You WIN!!


「こ、こいつ勝ち組だーー! 逃げろ――!」


中学生たちは俺の勝率を見て逃げ出した。

勝ち組とは、リザルトが勝ち側に振り切っている人のことを言う。


「君、今のやりとり見せてもらったよ」


「あなたは……?」


「私は海外展開している大手のハイパー企業だ。

 君のような人材を探していた。うちには君のような勝ち組が必要だ」


「ふっ……わかりました、任せてください」


You WIN!!

You WIN!!


俺と相手のどちらにも勝利が表示された。

こういうパターンもあるのかと少し驚いたが勝ち数が増えたので文句はない。


一流企業に勤めていると箔が付くのか遅れてモテ期も到来した。

少し前まで引きこもりニート生活していた自分からは想像できない。


「あのっ、先輩! 私と付き合ってください!!」


「俺のどこに惚れたんだい?」


「先輩の勝率……すごく高くて素敵です!

 常に勝ち負けを意識して勝負する男らしさにときめきました!」


「だったら、俺の答えは……わかるよね?」


「え、それじゃあ……付き合ってくれるんですか!」


「いいや、お断わりさせてもらうよ。

 誰かに告白されたのを承諾してしまえば

 俺は"落とされた"として敗北カウントされてしまうだろう」


「そんな……」


「だから俺から告白させてもらう。付き合ってくれるかい?」


「SU☆TE☆KI!!」



You WIN!!


俺はまた勝利をひとつ増やしてしまった。罪な男だ。

こんなにも勝負ごとに自分が向いているとは思わなかった。




『私はこの国を良くしていきたいと思っております!

 有権者のみなさん、私をよろしくお願いいたします!』


街では選挙活動で騒がしくなっている。

しかし、耳を傾ける人など誰もいない。みな見ているのは勝率だ。


「あの人、敗北の方が多いよ」

「投票しない方がいいよね」

「負け組の人は信用できないよ」


「ここまで勝敗が浸透しているんだなぁ……」


今や判断基準はリザルトでのみ行われる。

勝者は常に信用され、頼られ、モテて、収入がある。

負け続きの人はゴミ。


「おいコラてめぇ、今肩ぶつかっただろ!」


「んだとゴラァ!! 勝率かせぎのチンピラがぁぁぁ!!」


腕っぷしに自信がある人間は勝率稼ぎにケンカばかり起こし、

弁が立つ人間はすべての会話を弁論大会のように相手を論破する。

恋愛は腹を探り合う告白ゲームと化した。


そんな勝ち負けの世界もある日急に終わりが訪れた。



ブゥゥゥン……。



何かがシャットダウンするような音が聞こえたかと思うと

頭の上に表示されていたリザルト結果が消えてしまった。


「おいおいおい! 嘘だろ!? 俺の勝率が!!」


あんなに貯めた勝率だったのにデータが吹っ飛んでしまったのか。

負け組は大喜びだが、勝ち組の俺としてはいい迷惑だ。


「そんな……今までの努力が水の泡……」


がっくりと膝をおった俺だったがこんなことでは諦めない。

選挙カーとタスキをかけて町へ繰り出した。


「私はこの勝負だらけの世界を変えるために、

 全国中立党を作ります!! みなさん、私に賛同してください!!」


リザルトが消えたことでみんな不安がっている中、

中立を訴える俺が救世主のように登場した。


「もうWINだのLOSEだの勝敗にこだわることはやめましょう!

 競い合いの果ては争いしか生みません!!

 みなさん、私に賛同して平和な世界を実現しましょう!!」



「そうだよ……もうこんな勝負世界嫌だったんだ……!」

「私たち、もう比べ合う必要なんてないのよ!」

「いいぞーー! 中立党!! がんばれーー!」


「応援ありがとうございます! 必ずや世界を中立にしてみせます!!」


俺が起こした中立党は大きなムーブメントとなって広がった。


「みなさん、争いをやめて中立になりましょう!

 勝ち負けにこだわる必要などないのです!!」


支持は世界全体に広がって、まるで宗教のようにあがめられた。

俺はその神の化身として祭り上げられている。


「リピートアフターミー! ライク・中立、ノーバトル!!」


「「「 ライク・中立、ノーバトル~~!! 」」」


そのとき、何かが再起動する音が聞こえた。



ブゥゥゥン……!!



「なんだこの音……いったい何が……?」


信者たちは俺の頭の上をじっと見ている。

気になって視線の先を追うと、俺の頭の上には文字がどんどん流れていた。



You WIN!!

You WIN!!

You WIN!!

You WIN!!

You WIN!!


「まさか、勝敗システムが復旧したのか!?」


You WIN!!

You WIN!!

You WIN!!

You WIN!!

You WIN!!

You WIN!!


「教祖様! どうなっているんですか!」

「中立を説いたのではなかったのですか!」


「ええ、もちろんです! だからこれは何かの不具合です!」


You WIN!!

You WIN!!

You WIN!!

You WIN!!


文字は止まらない。

いったい俺は何に勝利したっていうんだ。


You WIN!!

You WIN!!

You WIN!!

You WIN!!

You WIN!!

You WIN!! ....


いつまでも続くかに思えた勝利の文字も

最後の勝利の理由が表示されるとついに停止した。



You WIN!!


『勝因』

勝敗をこだわらないと言っておくことで

勝敗を気にしていた人間たちよりも上位に立った。



「あ、いや……ちがうんだ……これは……その……」



俺の目の前には「You Lose」と表示された信者たちが目の色を変えていた。


―――――――――――――――

You Lose...


『敗因』

勝率を気にしているくせにそれを隠していた人間に

ずっと騙され続けていた。

―――――――――――――――



「教祖様、覚悟はいいな?」



その後、信者は俺を心置きなくぶちのめしていった。

信者の頭には「You WIN!!」と表示されていた。



「結局みんな勝利しか考えてないじゃんかよぉ……」



この失敗から得た経験は、人生において何よりも重要だと心に刻んだ。

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