第14話『読書』
ぺらり。
陽の当たる縁側で、瑛人はぼんやりを本を読んでいた。
昼にはまだ届いていない時間帯。休日の午前ということもあって、差し込む陽光が実に気持ちいい。
空気が通るように開けてある襖の向こうからは、クラシック音楽が流れてくる。この時間は、オサキがいつもクラシック番組を見ている頃合いか。
瑛人にとっても実に都合がいい。オサキがいつも熱中して見ている朝のアニメは、読書するには少々気が散る。喫茶店のように、クラシックのような音楽が一番読書しやすい。
が、
「瑛人、コーヒー入れたぞ♪」
邪魔するのがひとり。
瑛人がちらりと視線を向けると、オサキが湯気の立つカップを手に立っていた。
その顔はにこにこと笑っており、無碍にも断れない。
気になっていた部分に栞を挟み、
「ありがとう」
と瑛人は受け取った。
当然のようにオサキはその隣へ。
テレビはいいのか? と訊こうとした瑛人の耳に、朝の偏った情報番組のオープニングが飛び込んでくる。なるほど。
「なにを読んでおるのじゃ?」
オサキは興味津々で、瑛人が持つ本を覗いてくる。
こうなったら相手をする方が早いか。
瑛人は勘弁して表紙を見せる。
「ふむ……『老人と海』? なんじゃ、年寄りを海に捨てる話かや?」
「ヘミングウェイに謝れ」
「えー」
古典的名著だというのに、まったく……と瑛人の口から愚痴が漏れる。
それを聞きつけてか、オサキが笑顔で言う。
「のぉのぉ、瑛人。なにかわしにも本をおくれ」
言うと想った。
しかしキラキラと目を輝かせているオサキを適当にあしらうのも気が引ける。
「ちょっと待ってろ」
「うん♪」
尻尾を嬉しそうに振っているオサキから離れ、瑛人は本を見繕う。
戻ってきた瑛人が持っていたのは、『陽だまりの彼女』という文庫本だった。
「お前なら楽しめるはずだ」
「ほぅ、本に煩いわしを唸らせるとな」
「言ってろ。今まで読書してるところなんて、見たことないぞ」
「ふふん。馬鹿にするでないわ」
そう言って、オサキは再び座った瑛人の背に、自分の背を合わせて読書を始めた。
二時間後。
「えい、瑛人ぉ。ごれ、ごれ、ちょー感動したのじゃあ」
彼女は感動で号泣していた。
作戦通りだった。
これはただの平凡な物語。
妖怪と添い遂げた男の、何でも無い日常の一幕である。
ロリババアとイチから始める新婚生活 あさき れい @asakirei
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