第6話 次のハロウィンまでに
「あ、でも先生が……」
「先に帰って向こうで待っていようよ」
「……うん」
ルーミィに諭されて、エミリーは後ろ髪を引かれる思いで扉を抜けて魔女の世界に戻ります。この時、まだ日付が変わる前だったので、彼女の魔法能力は失われずに済みました。魔女世界に2人が辿り着いた時、時間を確認すると23時の45分。当然ですが、研修組の中では最後の帰還者です。
その後、別れの挨拶をして彼女達はそれぞれの家に帰っていきました。
その頃、人間世界では牛になったチャラいおにーさんがまだ状況を理解出来ていないのか首を傾げています。
「ふも?」
「全く、いつも失敗するくせによくもまあこんな強い呪いを……」
先生はすぐにエミリーに追いつくつもりで速攻で魔法解除の呪文を唱えたのですが、その呪文ではこの牛化の魔法は解けませんでした。
どうやらパニックになった時に特別強力な力を発動させてしまったようで、それに見合ったレベルの解除魔法を使わないと解けないようなのです。
大体の仕組みが分かった先生は、いざと言う時の為の特別な杖を取り出して、大地の精霊の力を借りる本格的な呪文を唱えました。それは魔法にかかった対象者にも相応の負担を強いる、大変に危険なものでもあります。
魔女はあまり人間世界に干渉する訳にもいかないのですが、今回ばかりは仕方がありません。
先生は早速杖を掲げると、形態解除の祈りを大地の精霊に捧げます。すると杖から精霊の力が解き放たれ、牛の体全体を包み込みました。
「ふんもおおおおおおお!」
「これで、良し、と」
先生の魔法は今度こそ成功し、牛だったおにーさんは元の人間に戻りました。……全身黒焦げにはなってしまいましたけど。
こうして問題が解決したと言う事で、先生も魔女世界に戻ります。トラブルが発生した今年のハロウィン実習も、こうして終わりを告げたのでした。
次の日、のこのこと脳天気に学校に登校したエミリーは、早速先生から大目玉を食らいます。
「エミリー! 何で言いつけを守らなかったの!」
「ごめんなさいぃぃ!」
先生に叱られて彼女は頭を抑えて小さくなりました。悪い事をした自覚があるのを見て先生は小さくため息を吐き出し、勝手な行動をした事についてはそれ以上追求しませんでした。代わりにその潜在能力についてエミリーの実力を認めます。
「でもあの魔法はすごかったわ。やれば出来るじゃない」
「えへん」
もっと怒られるのかと思っていたら急に褒められたので、彼女はすぐに態度を変えて胸を張りました。調子に乗っているエミリーに先生は言葉を続けます。
「じゃあ今から魔法使ってみて。実力見てあげる」
「よーし!いっくよー!」
今ならちゃんと魔法が使える気がした彼女は、気合十分で魔法を発動させます。……本人は魔法を使ったつもりでしたが、実際はちっとも魔法は使えていませんでした。
魔法が不発に終わった事で、その場はシーンと静まり返ってしまいます。
「あれ?」
「はぁ……。やっぱりあの時魔法が使えたのはまぐれだったか」
「さっきのはちょっとした失敗! 今度こそ! 今度こそは!」
先生に失望されたエミリーは焦ります。焦ってリベンジを要求しました。
しかし先生はその要求を手を前に出して却下。そうしてその理由を説明します。
「あのね、魔法が確実に使えないと魔女って言えないの。こんな事なら来年も居残りかな」
「それは嫌! 来年は絶対行かなきゃいけないの! さとみに会ってお礼を言わなくちゃ」
彼女はさとみとの約束を果たそうとムキになります。その様子を見て事情を察した先生は、にやりと笑みを浮かべました。
「ふぅん、じゃあしっかり修行をしなくちゃね」
その後、魔法の補習にエミリーが精を出したのは言うまでもありません。何度失敗しても彼女はもう諦めませんでした。
来年までにはしっかり魔法を使えるようになって、胸を張って人間世界にまた研修に行けるように。折角出来た人間の友達とまた遊ぶ為に。
「さとみ、待っててね! 来年は成長した私の姿を見せてあげる!」
気合ばかりは一人前なものの、その道程は果てしなく長いものとなりそうです。補習の成果も出てきて、魔法の発動自体はいくらか出来るようになったのですが、相変わらずテストとなるとさっぱりうまく魔法は使えません。
「ほら、また失敗してる」
「ううう~」
エミリーは涙目になりながら魔法の修業を続けます。この成果が実って来年のハロウィンにまたさとみに会えるといいですね。
ハロウィンと見習い魔女エミリー にゃべ♪ @nyabech2016
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