超巨大迷路女子寮の中で営まれる、少女たちの息遣いに肉薄せよ!

九龍城とは90年代まで香港に存在した迷宮的スラムのことであり、私たちがしばしば思い描く猥雑でロマンあふれる香港のイメージの大部分がこれに依拠しているのではないか。

この作品の表題でもある「少女九龍城」は、その名に違わぬ魔境の"女子寮"である。
そこには、迷宮の地図を作ろうとする加納千鶴や、学校から近いというだけの理由でうっかり迷宮に入り込んでしまった竹原涼子、引っ込み思案なメガネっ娘の木下真由など、多数の女子が住んでいる。
増改築を繰り返した寮の中に様々な生徒が存在することで、物語がまさにモザイク状に展開されるのだ。なぜ私たちはこのようなイメージにときめいてしまうのか。それは、グーグルマップがあればどこにでも行けてしまう高度に情報化したこの社会が失った不透明性がここにあり、そこから生じる、何が出てくるか分からない期待感が、郷愁とともに私たちに突き上げてくるからだ。

こうしたロマンに風味付けをする香料はここが"女子寮"だということ――、
ほのかな百合成分が迷宮見物の絶好の肴となる。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=村上裕一)

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