中指のささくれ

@amadokisigure

中指のささくれ

 カーテンレールに引っ掛けていたタイトスカートが、バランスを崩してハンガーごと落ちた。拾いに行こうかと一瞬迷ったが、目の前のグラスが寂しそうに私を見つめるものだからついつい浮かせた腰を降ろしてしまった。

 「あ~あ~、明日にゃ皺になってらぁ」

 独り言をつぶやいたつもりだったが、カンッとキッチンの蛍光灯が返事をしてくれた。こいつのやけに人工的な白い明かりは好きにはなれないが、案外優しい所もあるじゃないか。手元のグラスの中でキラキラ反射しているその光は何だか綺麗で、蕩けそうに光る中身も心なしか甘そうに見えた。

 「もう一度、みんなで酒を飲みたかったなあ」

 返事は返ってこなかった。

 グラスを煽った。酒は苦かった。

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