ep.6 模擬戦
翌日、午前中の授業はつつがなく終わり訓練の時間がやってきていた。今日は格闘戦。両腕部に収納されている模擬ヒートナイフの使い方を座学で習ったので、それの実践講座のようなもの。
『早く立ち上げろ。戦場はモタついた奴から死んでくぞ』
南條教官曰く、新しくペアを考えるのが面倒だったと前回と同じく有栖がペアだ。
クラスメイトと組み手をさせられ、互いに取っ組み合いをした状態でのスタートとなる。
そこからどうやって武器を取り出し、急所へと当てるかが勝負のポイント。装甲を軽く切り付けようと同じ場所を何度も攻撃しないと意味が無い。
人間で言う心臓や脳を直接狙っても良いが、その場合も硬い装甲を貫くか、懐に入って柔い部分を狙わなければならずリスクが高い。
であれば、リスクを減らすために関節部を狙い、その上でナイフより貫通力の高いライフルで狙うのがより良い近接戦闘だと教えられている。
「組手は
2人とも女子で幼なじみらしく傍から見ても仲が良い。
烏山は背が高く、170cmはある。だからといって身体付きが良いという訳でもなくてむしろ細身で筋肉質なタイプだ。
逆に仙川は小さめで150cmほど。烏山は髪が腰まで伸びているのをポニーテールにしているが、仙川は短めでカチューシャをしている。保護欲をかきたてられるタイプで、烏山も身長差から親子に見られることもあると言っていた。
「よろしく頼むよ、烏山」
『あぁ、こちらこそ。高秩嬢もよろしく』
「えぇ、お互い頑張りましょう」
『あ!みんな私のことハブるじゃん!』
「仙川もよろしくな」
『うん!よろしくね、青葉くん!』
ガッチリと鋼鉄の巨人が取り組みをしながらの会話である。
無線通信を行うと南條教官にモロバレで怒られるので、プライベート的な接触通信で会話をしているが、カメラが南條教官がコチラをチラッと睨む姿を捉えているのでどうやらバレているようだ。
『ふむ、全機良いな?模擬戦、始め!』
その合図に合わせてお互いに脚部のスラスターを吹かす。ここで威力を落とせば一方的に寝かされ、マウントを取られてしまう。どうやってこれを流し受けるかが次のポイントになる。
右腕部のナイフを相手側に向けて解放し、同時に右側のスラスターを逆噴射すると相手が勢い余って前のめりになる。OSに組み込まれた補助AIはバランサーで無理やり体制を立て直そうとするので、握っている腕のスラスターを噴射して一気に押し込む。
すると相手は軽く組んでいた俺の機体の腕を離して仰向けに倒れていく。そのまま両腕部のナイフを射出して、肩と胴の関節部に突き刺しながらマウント状態となる。
『負けだよ、青葉。一瞬の隙を突こうかと思っていたけど、思いのほか早く動かれてしまった』
「最後に腕を離せなければ俺もそのまま地面に寝てたよ」
『そう言ってくれると助かるよ。あー、それとなんだがね、早くどいてくれると助かるんだが。機体越しとはいえ男が女の上に乗ってるのは些かまずいかと思うよ』
「悪い悪い、今どくよ」
意識し過ぎなきがしなくもないが、決着がついているのにそのままの状態なのもアレなので横にずれて、烏山・仙川の乗っている機体が起き上がるのを手伝う事にする。
『終わったらペアと交代してもう一度。その後は片側のみ交代、1人2回やったら各自終了。ハンガーへ収納しろ。今日は伝達事項もあるから終わったら教室に集合』
伝達事項、一体何なのだろうか。有栖は何か心当たりがあるようだが中学は一般、高校も配属先が決まっていのに急遽変更になり長野に来たので
そんな考え事をしていると、有栖と仙川の模擬戦が始まっていた。昨日も思ったが有栖は機体の操作もお手の物だが何より武器の使い方が上手い。ライフルの時は反動を少なくする様な撃ち方をしていたし、ナイフも腕部から直接投擲物として使い、それをブラフに有利状況を作り出していた。
最後はナイフを避けた方向に全スラスターを吹かせて回して転ばせる。そのまま膝関節を横からナイフで刺し動きを封じ、頭部への攻撃で決着となった。
そのあとは仙川と模擬戦を行い、有栖も烏山と模擬戦を行い俺は1勝1敗。有栖は2勝して、模擬戦は俺と有栖のペアが勝利となった。
他の所も続々と終わり、ハンガーへ収納する。今日は明日の全機整備チェックが入るため個人での整備は要らずそのまま教室へと集められた。
南條教官はベランダでタバコを吸い終えると全員いるのを確認して話を始めた。
「よし、全員集まったな。まぁ、伝達事項と言っても訓練に直接関わることじゃない。まぁ、知ってる人もいるかとは思うが、来月の中間試験後にクラス対抗の模擬戦がある。これは成績に加算はされど減点はされず各クラス代表を選出、トーナメント形式で行われる」
南條教官は概要を話しながら、黒板に対抗戦の要点をまとめていく。
まず、6クラス代表者2名を選出しくじ引きによるトーナメントを行う。ここでの成績上位者は今後昇級の際に有利に働くことがあるらしい。また、希望の配属先への優先権も与えられる。3年次までに入賞した者は卒業後は特地への派遣及び、指揮官育成組へ編入が可能となる。
と、デメリットになることは無くむしろ魅力的な部分がとても多いものとなっていた。
「で、私のクラスはいつも試験前最終週にシミュレーションでの代表選出試験を行っている。まぁ、簡単に言えば前哨戦だ。トーナメントに勝てば教官である私に臨時ボーナスが支給される。そしたら、まぁ、肉でも寿司でも奢ってやる。負けたら……その時は死ぬまで特訓するかぁ」
なんとも理不尽な話である。だが、ここでやらない手はない。
ただ、昨日今日の訓練を経て分かった事がある。俺は全体的にシミュレーション、実機における訓練時間が他のクラスメイトより圧倒的に少ない。今日の模擬戦も烏山には奇襲的な行動で勝てはしたが、それが読まれていた仙川には地力の差で負けた。
クラス対抗戦まで時間はあるが、1人でひたすら練習しても意味は無いだろう。どうするか、早めに考えておかないといけない。
南條教官はそれだけ話終えると「終わり、解散」と告げてまたベランダでタバコを吸い始めた。
クラスの皆もゾロゾロと寮へ帰っていく。有栖は何やら南條教官に用があるらしく先に部屋に帰ることになった。
時間も時間なシャワーを浴びてため夕飯の支度をしていると、要件を終えた有栖が帰ってくる。
しかし、帰ってくるなり何かを思い出したように少し不機嫌な顔をしていた。
「お、おかえり」
「ただいま。それにしても両手に花で寮へと帰宅とは来て間もないのに手が早いものね」
何かと思えば、帰宅する際に烏山と仙川の2人と今日の模擬戦について話していたことだった。
恋人同士でも無いのに、そんなにも不機嫌になるようなことだろうか。いや、確かに不機嫌になるような出来事だった。
そう言えば彼女は俺の来る前に何やらあったようで同性含め友達がいないのである。元々長野出身という訳でもなく、転校してきたばかりの俺が友好の輪を広げているのが少し気に触るようだ。ペットの猫か何かだったりがする行動だ。有栖は猫だった……?
「いや、あれは別に模擬戦の感想をお互いに共有していただけであって」
「知ってるわ。あなたのコミュニケーション能力が少し羨ましかっただけよ」
「今度は有栖も交えてやるようにするよ」
有栖には無いが、見えないしっぽが見えたような気がしないでも無かった。
VTTAR/ヴィタール あんじ @anji0627
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