ep.5 訓練初日

「モニター接続、起動開始……確認。ニューラルネットワークに接続、ニューラルリンケージとの接続を確認。補助システムの起動を開始」


 最初期は各国が各々のOSを作り、搭載していたがそれでは不便である事や起動プロセスに問題が生じた等を受けて東側と西側それぞれでOSを作る運びとなった。そこから更に淘汰は進み、今現在では日本、アメリカ、イギリスの3国が共同で開発したOSが西側も含め採用されてる事が多い。そのため国際規格で簡易、簡易化された。

 だが、10年も前の機体となるとそうはいかない。この機体はまず、カメラ、システム補助AI、戦闘補助システムが起動するという工程を踏むため起動までが長い。そこから姿勢制御システムによりバランサーが機能し、動くことができるようになる。更には南條教官の意向で火器管制システムが機能していなかった。


 OSは正常に立ち上がり、戦闘補助システム作動が確認されると、頭部・メインカメラの上の方、頭頂部にあるセンサーといった場所が起動し始める。そして『lock』が『unlock』の表示になり機体の操作が出来るようになった。


「エンジンは点火してる状態で動けるようになるまで5分か、遅いな」

「10年も前の第二世代の旧型よ。OSも統合されてないし、仕方ないでしょ。それより武、複座の操作許可承認してくれない?」

「おっと、スマン。忘れてた」


 ニューラルリンケージで直感的な操作の補助が行われているため、視線で捉えたタスクの許可申請を承認する。

 複座にいる人の役目は、ネフィリムの起動に必要なシステムの二重の確認及び正常に作動しているかの監視、メインパイロットのバイタルチェックと危険時の操作交代と、暇になることは無いだろう。訓練生は特に操縦時にパニックになりやすい為、その補助は欠かせない。


『よーし、全機起動の確認が取れた。これから戦闘訓練を始めるぞ』


 南條教官の一言で訓練機に乗っているパイロットたちは気を引き締める。

 事前に櫂から聞かされていたが、元エースパイロットである南条教官の戦闘訓練訓練はとても厳しいとのこと。

 だが厳しいのは口だけらしく、成績評価はそこまで辛くない。というのもこれから出る戦場という中で最も死の確率が高いのは初めての戦闘だ。慢心や傲慢な心よりも緊張や恐怖心、不安によって普段通りの動きが出来ない事が多い。しかし、それらを肯定できるだけの自信があれば最低限の行動は取れる。

 これが彼女の中の理論であり、それを叩き込まれるのがこのクラス、この部隊だ。

 実際、南條教官が指導した卒業生達の生存率は驚異的なもので、撃破率もベテランに負けず劣らずとこの指導が正しい事を指し示している。


『まずは射撃訓練だ。各自TYPE-22を持って、あの的狙え。ワンマガ35発、25発以上当てたら交代しろ』


 ラックに立てられる様に置いてあるペイント弾の込められた銃を取って、1.5km先で動く的を狙うことになる。

 1.5km、これは敵─VTTARヴィタールの中でも近接型の射程範囲に捉えられないギリギリの距離だ。

 今回の目標は敵の長槍級タイプ・ランサーを想定しており、接近されないための素早い撃破と対多数を想定した際の一撃必殺な正確性を求められている。


『戦場において火器管制システムが正常に作動し続けるとは限らない。それにセンサーで捉えられない敵が潜伏しているかもしれない。機械に頼りきるのは最後の最後、全ては己の技術があってこそだ。これが出来んと死ぬぞ、気を抜くな』



 全員が立ち姿勢から銃を構え、的の方へと向ける。スコープとリンクし、網膜投影されたサイトを元に遠くで動く的を狙う。呼吸を整えてトリガーを引くと、轟音をたてて遠くの的を撃ち抜き的はパステルカラーに染まる。

 あとはその繰り返し。この行動に慣れ、早ければ早いほど死ぬ確率は減り、正確性が増せば増すほど更に死ぬ確率は減る。つまりはこれが生存への可能性を高める基礎的な手段なのだ。


「早く正確にって言われてもなぁ。言うのは簡単だけどよ……」

「文句を垂れても何も変わらないから、さっさと終わらせなさい」

「へいへい」


 TYPE-22は純日本製のライフルであり、かなり頑丈で精密に造られている。というのも、南條教官の所属していたストライク・ヴァンガードの意見を採用し、火器管制システム無しでもリロードと射撃が可能となっている。世界的にも完全マニュアル式での最高傑作と言われている代物だ。

 日本製というだけで信頼度は高いが、データ的にも弾詰りジャムの確率が極端に低く、ライフリングピッチが安定している事から、最前線を守っている兵士は好んで使っている者も多い。


 何よりも価格の安さも魅力だろう。材料はアメリカからの輸入だが、過去VTTARヴィタールとの戦役にて結ばれた条約により低価格で購入できている。また、国内で軍主導のもと作成しているため卸値も比較的安価だ。逆に輸出の際は少し高く値を設定しているため儲けはかなり出ている。


「はい、終了よ。的中は15発と残念ながら不合格よ」

「シミュレーションとは違って難しいな。特に揺れが身体にくる」

「それも慣れね。まあ、私を見てなさい」


そう言って自信満々で交代をするが、やはり言うだけはあるのか連射の速度も速い。それでいて的中率も高く35発中29発と7割は当てている。

彼女はどうやら座学の成績も良いが、訓練の成績も上位クラスなようだ。


『よーし、全員終わったな。本日の射撃訓練は終了、各々の使った機体を格納庫に収納しメンテナンスにあたれ。明日は格闘戦するからな』


南條教官はそう告げると早々に喫煙所の方に向かって行ってしまう。

10年も前の機体になると機構は簡易的に作られており、メンテナンスも手順がある程度決まっている。2人で行えばそんなに時間もかからずに終わるだろうが、ここにも南條教官の指導方針が関わってくる。

実地において、そもそも修理兵が常に機体に乗っているわけではない。戦闘中に不具合が起きた場合、自分で原因を見つけ修理できなければ死ぬ可能性も大いにある。せめて自分達の乗る機体の修理や整備の方法くらいは把握しておけということらしい。


「訓練の前にした約束、覚えてる?」


パイロットスーツの上から作業用のつなぎを着て整備をしていると、有栖から声がかかる。


「夕飯の話か?」

「そうそう。私の方が成績良かったから夕飯は武の担当よ」

「いや、確か俺がヘマしたらとかだたろ」

「そうだったかしら?」


とぼけるのが何ともお上手な事で。まぁ、実際有栖に作らせると不味くはないが物足りない何とも言えない料理が出来上がってしまう。それならば、まだ俺が作った方が幾分かマシというものだ。


「わかったよ、でも次は負けねぇよ」

「ふふ、勝者はいつでも挑戦を待ってるわ」


何やらスパナが遠くから飛んできそうではあったが、有栖を盾にしつつ整備を終え寮へと帰ることにした。

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