第5話

ある朝、俺は校舎内に設けられた自分の部屋で、机に向かっていた。

すると、ヒメが入ってきた。

「お兄ちゃん、ちょっといい?」

「その質問は入る前にするものだって知ってるか?」

「ごめんごめん。家にいるときの癖で。なにしてるの?」

「あぁ、この世界について分かったことをまとめてた」

この世界に来てまず驚いたことは、魔法が俺たちにも使えることだ。この世界の文明を支える『魔法』とは、星のコアと精神をつなげ、世界の法則に干渉することらしい。コアと精神との連結は、技術によるもので、身体機能と関係ないため、この世界の人間ではない俺たちにも魔法を使うことができる。現に、ヒメは授業内容を全て暗記することで、学年トップの魔法使いになった。他の人間にはとうてい無理なチート学習法だ。俺はというと、アレイア先生の補助、実際は先生への挑戦者の整理や、授業準備しかしていないため、魔法の技術は進歩していない。その代わりだが、暇なときによく魔道具を作るようになった。『魔道具』とは、事前に特定の魔法が込められた武器や家具などで、魔法の技術に関係なく魔法が使えるため、重宝されている。ただ一つひとつがかなり高額で、使用には、別の技術が必要なため、あまり出回っていない。それを作っていたわけだ。

「これなんか、最新作のボーガンだ。射撃系の魔道具は、どうしても弓矢の形状である必要があるらしいが、これなら片手で持てるし、強い力はいらないし、魔法を矢の方に仕込むしくみだから応用が...」

「お兄ちゃん、誰に説明してるの?」

「あぁ悪い、それで、お前の用件はなんだったんだ?」

「あ、そうだ、これ見て!」

ヒメが取り出したのは校内で発行されている学校新聞だが、その見出しは。


『衝撃‼新任教師と美少女転校生、まさかの禁断の関係⁉』


「は?なんだこれ」

「もうかなり騒ぎになってた。朝、いきなり部屋の中に女子が乗り込んできて、もみくちゃにされちゃった」

「別に、その場で説明すればよかっただろ?」

「説明したけど...」

「?」

「部屋にお兄ちゃんの下着とかあったから信じてもらえなくて」

「俺の下着⁉」

「たまに盗んでたのに気付かなかったの?」

「てっきりなくしたものだと」

「最近はあれがないと眠れなくて」

「俺、お前がちょっと怖いよ」

ヒメがやばい段階の変態になりかけている。どうか、ベッドの下のあいつの下着に気付かれませんように。

「こうなったら、お兄ちゃん、責任とるしかないよ」

「責任?」

「そう、責任とって私と、け...け...」

「よし、教師辞めるか」

「けっこ...え?」

「ほっといてもどうせクビになるだろ?だったら責任とって辞職だ」

「え、でも」

「あ、お前はいいぞ、面倒臭いし、生徒続けろ」

俺はだいぶ嫌々で教師をしていたが、ヒメは、結構楽しそうだった。ここ最近学校をサボっているあいつが、学校生活を楽しんでいた。なら、なるべく維持してやりたい。変態教師がかわいい生徒を襲った。生徒はそのショックで頭が混乱している。そうすれば、ヒメは退学をまぬがれるだろう。

「よし、じゃあちょっとアレイア先生と話つけてくる」

部屋を出た俺を、ヒメが追おうとするが。

「え、動けない!もしかして『マジックトラップ』⁉」

「悪いな、さっき仕掛けた。俺が解除するまではそのままだ」

「待って!お兄ちゃん‼」

俺は部屋のドアを閉めた。

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