繊細、という大雑把な言葉で括れない、心の隅っこをカリカリと掻かれるような痛い快感と、思わず笑いが漏れる絶妙な可笑しみを伴う物語です。
1.5センチのハゲを見つけたところから始まる、主人公の長い一日。
サファリパークに例えられる中学という場所。
世の中は小さな勘違いで回っている。
イケてない人の内面には大きな空が広がっている。
自分から見える他人は所詮自分のフィルターを通したものでしかない。
なんでしょう、たった一日の中にこれだけ濃い世界が描かれるとは。
きっと誰もが多かれ少なかれ経験した、あるいは経験途中の、言葉にならないもどかしくもつれた思いが、ユーモアのあふれる文章で綴ってあります。
隠した日記を紐解くような苦くて優しい余韻が残るお話です。
ぜひ、ご一読をお勧めします。
志田キヨミ(14歳女子)の頭にハゲが出現!
艱難ありありな学校生活と辛苦に満ちた私生活がもたらしたストレス性円形脱毛症に、そっと死を決意したりもした彼女だが、直径1・5センチの秘密を隠し通して生きることを決意。孤独な戦いを開始するのだった。
いや、実に明快な冒頭部にやられましたね。キヨミさんには申し訳ないのですが、最高にキャッチーです。
そして続く第2話、出だしが「学校とはサファリパークに似ている」ですからね。
彼女の置かれた状況がどれほど過酷なものかがズバっと思い知らされます。
悲喜劇って相当難しいんですが、ネタも構成も一文のインパクトも、この上ない決まり具合でした。著者さん、うまいですねぇ。
薄暗さを醸し出しつつ、きちんと笑わせてくれるんです。そして最後にキヨミさん自身が笑ってくれるエンディングがまたうれしい!
完結済みの33331文字、読んで損なしの一作ですよー。
(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=髙橋 剛)