ラゴと、烏翠。その灰色の交流には「黒」の部分が非常に多かったようである。族長代理、すなわちタフラ・マージャ(反則だろこのかっこええ用語!)たるサウレリは、「翠浪の白馬、蒼穹の真珠」本編では暖かくも優しい兄であったが、この物語では雄々しき武人の顔をみせる。戦う相手は、烏翠軍。
驚いた。
一体何が起こってしまっているのか、と。
結論から言えば、過去の物語であった。あのサウレリに、このような過去があったのか、と。物語の中で描かれるサウレリの心境は、穏やかに風に波打つ草原のようでいて、また荒れ狂う海原のようでもある。
サウレリの前に、一人の男が現れる。大いに烏翠という荒波に翻弄されながらも、進むべき先を見失うまいぞとする、とある烏翠の公達。その志に打たれつつも、タフラ・マージャとしての判断を重んじなければならないサウレリ。
二人は国際情勢という、いかんともし難い環境の中、それでもお互いのことを認めずにおれない。その過程を見守るのは喜ばしくも、切なくもある。
見てくれ!
これがブロマンスだ!
山岳の民ラゴ族の若き族長、サウレリは戦の最中にある。
対峙するのは、ラゴ族の地と境を接した定住民の国、烏翠。
宗主国と呼ぶのは抵抗がある。交易によって共存してきた。
なのに、なぜ烏翠は唐突にラゴ族に苛政を突き付けるのか。
一方、烏翠の朝廷からラゴ族へと遣わされた使者がいる。
彼の名は、弦朗君。烏翠の王族に連なる貴公子である。
ほとんど丸腰のような状態で戦地に行き倒れていた彼を、
陣中にあったサウレリは偶然、保護する運びとなった。
サウレリと弦朗君は和平交渉や取り引き、駆け引きを通じ、
やがて感情や信念をぶつけ合い、理解し合おうと試みる。
互いの立場の相違点や共通点、人の上に立つ身の難しさ。
束の間の語らいがもたらすのは、悲劇か和平か、友情劇か。
決してわかり合えないわけではない。
ただ、男たちには譲れないものがある。
作中を渡る風の色合いと言おうか、
雰囲気がとても好みで、すごくよかった。
弦朗君の潔さ、サウレリの男気、どちらも抱える大事なものがありながらも、一人の男としての生き様を見せてくれる。
一族の頭領として、家族の長として、彼らは引けぬモノを抱いている。しかし、目前の相手に対して男として対峙し、双方の胸には情が宿る。
政治は情だけで動かしてはいけない。
しかし同時に情の無い政治には人々がついてこない。
理想の政治を体現するには様々な障壁がある。
弦朗君とサウレリの二人には、その理想の政治を体現しうる資質がある。とはいえ、双方の現状では政治に活かせそうもない。
いつか二人が表舞台で力を発揮しうる時が来て欲しい。
男の生き様を見せた二人の先行きを祈る。
そう感じさせてくれた熱い作品でした。