ありふれ……てねぇわ! 面白過ぎる!

場所は中世ヨーロッパに似た世界。次代の国政を担う貴族の若者たちが親交を深めつつ共に学ぶ学院において、男爵の落胤であると判明した元平民の少女が高位貴族の子息たちを次々に籠絡していき、夏の長期休暇を間近に控えたある日、第二王子ウィリアムは取り巻きである高位貴族の子息たちと共に自身の婚約者であった公爵令嬢アリシアを断罪し、婚約破棄を宣言する!

なんというありふれた乙女ゲーの婚約破棄シーン……と、思うじゃん?

そんな公爵令嬢アリシアの断罪の場に居合わせた彼女の従者のアベルはその時、突然思い出す。目の前で起きている出来事が自分の前世において妻と娘がハマっていた乙女ゲーにおける悪役令嬢断罪シーンであることを。そして、自分自身は世界最強のアメリカ海兵隊における特殊部隊フォースリーコンの少佐であり、とある作戦従事中に敵の戦術核兵器によって部隊諸共戦死した存在であることを。

前世の記憶を取り戻したアベルは混乱しつつも海兵隊員として身につけた軍隊格闘術でとりあえず主人であるアリシアを窮地から救い出し、敵がおいそれと手出しできない公爵領に避難させるが、貴族派と王室派の長年の対立の融和を目的とした政略結婚であった婚約を王子が一方的に破棄したせいで国内の政情は一気に不穏になっていき、このままでは再びアリシアの身が危険に晒されるのは明白だった。

それでアベルはアリシアが様々な苦難に立ち向かい跳ね返すだけの強さを持てるよう鍛え上げることにする。……あの悪名高いハートマン式のアメリカ海兵隊新兵訓練(ブートキャンプ)によって!

徹底的なアベルのしごきによって海兵隊精神を叩き込まれた精鋭海兵に生まれ変わった女傑アリシアは食い詰めた冒険者たちを鍛え上げて強力な私兵集団を作り上げ、立ちはだかる敵たちを容赦なく、徹底的に叩き潰して(物理)腐りきった祖国の腐りきった根性を叩き直していく!

いやもう、レビューではあえて伏せている部分もあるが、悪役令嬢とアメリカ海兵隊というめちゃくちゃな組み合わせが実に痛快で素晴らしい。そして、作者がこの作品の中で後方支援に重きを置いているあたりも実に通好みであるといえる。

ありふれた題材をよくぞここまで面白くしたと手放しで讃えたい。この新しい切り口の悪役令嬢の物語をぜひ読んでほしい。

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