第5話 便利モードは先に教えといてくれ!

 今までの異世界転移では、行った時だけ、異世界での時間が進んでいた。

 要は、状況をその都度セーブして、セーブポイントから再開するイメージ。プリンタの説明書によると、これを「再開モード」と言うらしい。


 ところが、現世は現世で、異世界は異世界で、それぞれ勝手に時間が進む「非同期モード」があるとわかった。


 バチクリ。バチクリ。まばたきを2回。


(はぁっ!)

 なら、出来る事も色々増えるじゃないか!


 俺はトイレの個室に駆け込んで、異世界転移。街の外れにあるアイータの酒場に行った。


 ログハウスの中ではランタンの火が灯って、頬に傷あるゴロツキが昼間から酒を飲んでてガヤガヤしてて……みたいなのを、当初は想像していたが、実際には、窓開けっ放しの明るい店内で、清潔。地味にカルチャーショックを受けた。


 ここからは、昼休みの前半30分をまとめて投入して、一気に進めた方が時間効率が良いだろう。


 パーティに加えた仲間は、

 アヤカ(僧侶、女性)

 レイモンド(商人、男性)

 タツキ(商人、男性)

 の3人。


 つまり、「勇者、僧侶、商人、商人」の4人パーティだ。


 なぜに、そんな仲間を選んだか?


 とにかく、金だよ! 金!


 サラサラっ毛で素直でドジっ子なアヤカと2人っきりでウヒヒヒと冒険に出る。モンスターを倒して、資金を得る。あとは金策、金策、金策。


 資金を商人2人に渡し、彼らに増やしてもらった。

 俺が現世でデスマーチと戦っている間に、勝手に雪だるま式に増えていく、手持ち資金。


 あとね? 俺、強かった。

 これ、勇者のレベルとか武器防具の強さとかじゃなくて。


 バトルの時は、「再開モード」でクエストを進める。

 ちょくちょく現世に戻って、ちょっと考えてから、また異世界に転移し、直前の状態から再開する。


 動画に例えると、静止画をヒトコマずつコマ送りするような芸当が可能!

 アクションゲームとかに例えると、一時停止ボタンを連打しながらプレイするような感じのチートプレイを、生身で異世界で実現したようなもんだ。


 異世界転移と現世戻りを小刻みに繰り返すことで、ファンタジー異世界の中に無いチート能力を、俺は作り出した!


 その、強いの強くないのって!


 ……強いんだけどさ。


 (チートの)強さに引かれて、俺はカリスマ化した。


 「弟子にしてください! 勇者せっかち!」

 「せっかち師匠!」

 

 門弟も仲間も増えて、冒険の効率がよくなった。人海戦術だどん!


 商人のレイモンドが「この調子なら、ギルド化も行けますよ」というので任せたら、いつの間にやら、どんどん仲間が増えた。ねずみ講か! って位に。イ○バ物置の天井を突き破る位に。


 そこは、「商人の、さすがのコミュ力!」と、俺は感嘆した。


 さらにさらに!


 増やした金で傭兵を雇って、魔王退治に関係ないクエストは外注アウトソーシング的にやってもらう。もちろん「非同期モード」で勝手に進めてもらった。傭兵がゲットしたアイテムや金の一部を、元締めとして有り難く頂戴する。


 いやあ、サクサク進んだね。

 人海戦術恐るべし。


 そして、当初予想していたよりもずっと早く――。


「さあみんな、乗り込むぞ! 魔王の城へ!」

「「「「「「「「行きましょう! 勇者モトジメ! おおー!」」」」」」」」


 俺は、大量の仲間(っていうか、もはや軍勢)と共に、魔王の城にたどり着いていた。




 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る