第6話 いま、揚げにゆきます!


 あっさりやられた。魔王に。


 逃げ惑う、鎧兜の群衆。しかし炎の壁に遮られて逃げられない。


 俺がタスクを一個一個潰すのとは比較にならなかった。魔王の杖一振りで、俺の仲間が、まとまって潰される。

 そして、全滅。


 ……目の前に、「会社とは反対方向」へ向かう、10両編成の電車が止まっていた。「俺らは酢飯のひと粒だ!」とでも言わんばかりに乗り込む、サラリーマンの群衆。鋼鉄のすし詰めが、ぎゃあと悲鳴を上げて発車していった。


 異世界でやられると、強制的に現世に戻らされる仕様のようだった。


 ペナルティ軽いなぁおい!


 ……と思って出社したら、ファンタジープリンタCFP8300の『ファンタジートナー』がごっそり減っていた。


「なにやられてんの? 小野よ。ランニングコストもバカにならないんだぞ?」

 課長のお小言を神妙そうな表情を作って聞きつつ、トナー代を経費で落としてもらえるよう、お願いして、無理くりねじ込んだ。


 ともあれ、作戦のたて直しだなあ……。

 魔王は強い。

 コツコツレベル上げをしてると、俺の自由時間、無くなってしまうなぁ……。

 スナックラーニングなら、歩きながら英語の音声聞いたりできるけど、スナックで、「ながらモンスター倒し」は出来ないよなぁ……。


 ボールペンの背で、俺の机をトントーンッと叩いて考え事をしていると、なにやらガタガタドタドタと周りがうるさい。


 隣の部屋に、CFP8300が「もう1台」、搬入されようとしていた。業務拡張……のわけないか。昼休みを利用した、会社のレイアウト変更かな?


 この時。俺は作戦を思いついた。

 そのアイデアをスマホにメモって、俺は仕事タスクというモンスターとのバトルに挑んだ。なかなか勝てない。けれど、挑まないわけにはいかない。俺は独り身の、もうじき30になる冴えない男で、守る家族も無いわけだが、それでも「主任」という称号を得ている。


 戦わなくちゃ、現実と。

 主任の名にかけて。


 ◆


 夜、帰宅時の電車待ち。

 スマホのメモを確認した俺は、ヘッドフォン型の異世界ダイブ装置「モグーレ」を頭に装着。ちょちょっと異世界転移し、アイータの酒場に直行。


 商人2人組とは、今後の相互サポート契約を結びつつバイバイし、かわりに、僧侶を新たに2人、仲間にした。 黒髪長髪でクールなミカちゃんと、茶髪で元気で足細いキヨエちゃんだ。


 つまり、


 俺(勇者、男性)

 アヤカ(僧侶、女性)

 ミカ(僧侶、女性)

 キヨエ(僧侶、女性)


 の4人パーティになった。ハーレムハーレム!


 攻撃力を上げるために、剣には、思いっきりこだわった。


 もちろん、魔王を倒すのに必要と言われる「聖なる剣」などは、すでに入手済みだ。今回は、その攻撃力を上回る剣を、入手済みの「聖なる3Dプリンタ」で独自創作。


「ヤバイけん」という、語彙力が死滅した名をつけた。


 攻撃力はすさまじく、何でもかんでもズンバラズンバラと真っ二つにするので、「ヤバイなこれ……」と、思わず言ってしまったのが、その語源だった。


 ◆ 


 魔王打倒には、スナッククエスティングだけでは不十分だと、俺は気づき始めていた。スナックラーニングも必要じゃないか?


「ん? 小野、今日は異世界に行かないのか?」

「ええ課長。ちょっと、予習をば」


 ファンタジープリンタCFP8300の中に残ってたんだよ!

『ブラッククエスト(ブラクエ)校正用ver2.docx』

 のデータがさ!


 スキャンしたデータを保存しておく仕様のブリンターもあるんだね。廃棄の時は情報漏えいに気をつけないと。


 ともあれ、魔王はびこるファンタジー異世界の元凶と思われる、謎のラノベのデータを、有志が作った何でも電子書籍変換アプリ、でんでんトランスフォーマー電書ちゃんに捧ぐで電子書籍に変換。タブレットに転送。


 読破して、魔王の攻撃パターンとかを予習する。


 はー! マジで便利だなぁ電子書籍電書ちゃんに捧ぐ

 スナックラーニングに最適じゃないか!

 スナッククエスティングにもな!


 ……よし、準備も終わった。


 さて、サクッと倒しに行こう! スナックだけに。

 ポテトチップの如く、ヤバイ剣で刻んで、油で揚げて、魔王ザックマオーザックにしたる!

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