第4話 結論を先に言え!

 デスマーチ合間の細切れ時間で、異世界のクエストを進めるのは、とにかくしんどかった。


 何回か、異世界に転移してみて分かったこと。


 クラウド上に俺が誤生成しちまった異世界がさ。ロックがかかっちゃって、魔王を倒さないと、異世界削除が出来ないっぽい。


 ……やれやれヨレヨレ。


 あと、出てくるファンタジー風の長老とか、王様とか、とにかく話が長いのだよ。


「結論ファースト」はビジネス会話の基本だと思うが、王族とかはとにかく大仰に、伝説とか言い伝えとかを語りたがる。


 今朝の電車乗り換え待ち(3分)の異世界転移で聞いた話なんぞ、次に体が空く昼休みには忘れてるよ。タスクに忙殺されてるんだから。


「今必要なのは盾。盾は西の洞窟にある。これが洞窟までの地図。毒モンスターが居るから対策練っていけ」

 たったこれだけの話ですむのに。

「この国の、先代の王様がご存命の頃の話じゃ。竜族が……」から語るから時間を食う。今の話だけでいいってば。


 ともあれ、魔王を倒すには、聖なる剣と聖なる鎧と聖なる盾と聖なる3Dプリンターの、「四種の神器」が必要なことは判明した。アレ1個が違ってるんるんるー。


 俺がまだ、魔王を倒せるレベルに無いということもわかった。


 かといって、デスマーチの合間にちまちまレベル上げしてる時間もないと、冒険に出てみて思った。


 ゴブリンに一撃を加えて現世に戻り、お客様からの電話に対応する。内容をメモって簡易な報告書を作り、課長の席に行ったら、トイレに行ってるっぽい。なのでまた異世界転移してゴブリンの反撃を盾でガード。


 ゴブリンにカウンターを何発か当ててから現世に戻ると、課長はまだ離席中。大きい方かよ! と異世界に舞い戻って戦い、とどめの一撃をいれようとする直前で、なにかに肩を掴まれ現世に強制帰還。

「おい小野。なに、白目で突っ立ってるんだ? 用件は?」


 ……こんなんじゃ、冒険が進みやしねえ。


 アイータの酒場で冒険の仲間を集めるのも、いちいち職業だ年齢だ旅の理由だの会話をしてる間に、俺のスキマ時間は無くなってしまうから、面倒くさくてつい後回しになっちゃう。


 こんなんじゃクエスト終わらねえっての!


 でも、サービス残業で対処する羽目になるのは、絶対に阻止したい! ここぞとばかりに新しいタスクを振られて自由時間が無くなるに決まっている。


 だから俺は、異世界クエストをする時間を決めて、それを遵守することにした。


 行き帰りの電車と、何かを待っている時間。あとはお昼休みの前半30分。後半30分は自分の為に死守する!


 異世界でのバトルに関しては、会社のデスクでキー入力しながら、まさに「合間にスナックを食べる感覚」で、少しずつ進めた。敵の動きがコマ送りのようになるので、動きを見切りやすい。これなら、比較的低レベルでのクリアも狙えるってもんだ。


 モンスターを倒して稼いだ金は、主に「テレポート草」につぎ込んだ。ワープできる便利アイテムだ。単純作業である移動は、可能な限り減らしたいから。やり手のビジネスマンが短距離でもタクシーに乗るのと同様。


 道具屋で買ったマジック(魔法の方じゃなくて、字を書く方の)を使って、革の鎧の胴あたりに「会話は結論ファーストで!」とデカデカと書いたもんだから、ファンタジー異世界の序盤の大陸では「せっかち」と呼ばれることが多くなった。


 王様とかも、俺への対応に慣れてきたようで。

「あと1000ポイントで次のレベルだ。勇者せっかちよ! よくぞもどった! 旅は順調か?」

 こんな順序で話してくれる王様等も増えた。


 一般の村人(NPC?)とかも、空気を読んだ長老とかは、

「船の入手には20万カネーかかるから、南の灯台で黄金の像を見つけて古物商に売ると良い。おや、めずらしいの。こんな所に冒険者とは。いまこの村は収穫祭の真っ盛りでな。わしの娘のリリーも……」

 こんな感じで返答をくれる。


 ただ、それでもやっぱり、「まとまった対応時間」が必要だなあ、と思うわけで。例えば、ダンジョン攻略とかさ。日をまたぐと、道を忘れちゃってるし。

 

 そんなこんなで花の金曜日。職場の窓際にドーンとたたずむファンタジープリンタCFP8300の、説明書を見ながら、俺は思わず、呟いてしまった。


「異世界への転移モード、2つあるじゃん……」

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