いろいろとチグハグだと思います

 全体としては、「ターミネーター2」からアクションをすべて取っ払って、かわりに道徳的な説教話を詰め込んだようなお話。ただし、その説教も主題がはっきりしない。

 まずストーリーとして、これ、一億円という設定は必要でしょうか?

 この題名だと、さも主人公の人生が一億円で誰かに買われてしまうお話を想像しますが、実際にはそういう展開ではありません。

 本作は、時間を超えて来世の自分に会いに行く話であり、そこで何かを見つけるというストーリー。特に一億円で買われてもいないし、どっちかというと、一億円をただでもらった印象が……。
 

 主人公が来世で見つけたことが、管理された世界ではなく、笑顔のある世界が人間にとって必要であるというのなら、一億円も、キャバクラで働いている日常も、主人公のつらい過去も、さらにはオカマバーのママとの会話も、ほとんど対比、もしくはリンクしていない気がします。
 読者を楽しませたいのか、啓蒙させたいのか、そこもあやふやです。

 また、文体がしっかりしていて文学的であり、描写も大人のそれ。総じて高い教養と知性を感じさせる反面、行頭一字下げは成されておらず、「…」も二連続で使われていない。
 この辺りも、なにかちぐはぐな印象を受けます。

 大きな問題点がない反面、目を瞠る長所もない。クラスに一人はいる、印象の薄い子みたいな立ち位置で、これならいっそ、ここがダメという欠点が思いっきりあった方がレビューも書きやすいんですが、どうにもこうにも、ぼくには、作者さまの顔が見えません。

 お役に立つレビューにならず、申し訳ない。