あなたの人生、1億円で買います
壇条美智子
第1話:酒に飲まれる女
わたしは、今日もお酒に飲まれていた。
ワイングラスが、何重にもゆがんで見える。
「もう1杯ちょうだい!」
と言ってワイングラスを差し出すが、その手はゆらゆらと揺れて定まらない。
「ちょっと結子ちゃん、飲み過ぎよ」
律子ママが、またお説教モードになる。「飲みたいだけ飲ませてくれればいいのに、面倒くさいなぁ」と心の中で悪態をつきながら、ふてくされた顔をする。
「だって今日は休みなんだからいいじゃない」
「あんた休みって言ったって、いつも飲んでるじゃないの、お店で」
そう、わたしはキャバクラで働いている。
毎夜、毎夜のようにお酒に飲まれては、この店にやってくる。
「なによ、オカマのくせに」
「失礼ね。オカマはステイタスなのよ」
このオカマバー「Honesty(オネスティ)」の常連になって、かれこれ7年くらいになる。
律子ママとは長い付き合いなので、本当はお互いにそんなに腹は立てていない。
「とにかく、今日はもう寝なさい。布団敷いておいたから」
「ここの店は、客にお酒を出せないって言うの?」
「何がお客よ、ただ同然で飲んでるくせに」
「うるさいなあ、出世払いで倍にして返してあげるわよ」
「わかったから、とにかく上に行って寝なさいってば。ちょっと真由美ちゃん、この子上に連れて行ってあげて」
「はーい。いつもの部屋でいいのね」
「そう、上がってすぐの部屋ね。よろしく」
真由美はオカマバーの従業員。もちろん元々は男なので、力はある。
わたしの体くらい、簡単に持ち上げられるのだ。
ちょっとやそっと抵抗しても、びくともしない。そうしてわたしは、2階へ抱えられて行った。
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