先行プロローグ版として、ほぼ完璧な仕事をしているのが、本作。

 第三回カクヨムWEBコンテストに出品する作品として書かれる「過保護な堕天使、ズボラな私。」の先行プロローグ版として書かれた本作。正直ジャンル恋愛なので、読むのどうしようかな?と考えていたのだが、先行プロローグ版なら短いし、ちょっと試し読みだけしてみようかと読みだしたら、最後までいってしまった。

 とにかく、私と堕天使のキャラクターの対比、二人の関係性、そして全体に流れる突っ込みどころとも言うべきキャラの価値観のずれ。恋愛ものにありがちな、ドロドロ、デロデロした部分はあまり感じられず、軽快に読めて楽しめる。とくに作者の持ち味である、全体に揺蕩(たゆた)うキャラクターたちの微妙なすれ違いと勘違いの雰囲気は、ギャグのシーンはもちろん、シリアスな場面ですら一抹のコミカルさが漂っていて癖になる。

 まだ本編は未読だが、ちらりと覗くといくつかのエピソードが本作そのままで挿入されているようだ。普通こういうのは、同じ話読むのめんどくさいとか思っちゃうところであるが、なぜかこのお話だと、まったく同じエピソードがあると知ると、ああ、この雰囲気とノリで行ってくれるのね、と却って安心してしまうから不思議だ。

 とにかく、作者の作品企画力は凄まじく、前の作品から次の作品へ読者を逃がさない演出が上手い。この先行プロローグ版も、出すタイミングといい、内容と言い、本編へ引っ張る推進力が強烈で、正直本作がなければ本編を読むことはなかったのではないだろうか。

 そういう意味で、本作は先行プロローグ版としての役目を120パーセントこなしており、小説の内容はもとより、その企画自体が秀逸である。

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