終章 すべての男女は星になる
銀の鍵の門を超えて
最終回転 夢見るままに、待ち至り
そして。
その日、世界のSAN値は──
§§
出門部院六花は、ぱちりと目を覚ました。
自室のベッドの上だ。
おなかの上では、コウモリと猫が、丸くなって眠っている。
階下からは、お味噌汁の香りと、包丁の音が聞こえてくる。
朝。
清々しい、朝が来た。
「もう、立夏、夜更かししてたんでしょ? なかなか起きてこないから、もうちょっとで起こしに行くところだったのよ?」
「この歳になってママに起こされるなんて、ぶっちゃけはっちゃけノーセンキューよ」
「あら、勇ましいこと言うのね」
「当たり前でしょ? あたしは究極の救世主なんだから。残機は9人よ」
「ばか言ってないで、ご飯食べちゃいなさい。今日は六花の好きなキャラプリウインナーよ」
「よっしゃラッキー! こいつは伝説になっちまうわ……」
「まったく……誰に似たのかしらね、この子は」
くすくすと笑う出門部院水母を横目に、六花は食事へとかぶりついた。
「ランドセルよし、不審者用の警笛よし、スマホよし。ママー、あいちゅーんカード買ってー」
「ダメよ。パパのスマホで課金しなさい。あのひとの給料なら好きなだけ使っていいから」
「はーい。じゃあ──人の命は地球の未来! 出門部院六花、出場します!」
「爆発的に鎮圧せよ! いってらっしゃい」
「いってきます!」
穏やかな抱擁を交わしたふたりは、そのまま別れる。
水母は洗濯物を干すために。
六花は、学校へと登校するために。
歩く道は、どこまでも見慣れた代物だ。
空に太陽は二つあり。
青く、青く、突き抜けるように青い空が広がっている。
肩に乗せていた猫がにゃーと鳴き。
頭の上に載っていたコウモリはにゃぐーと鳴く。
すれ違う人々は、みな活気に満ちている。
積木細工のような人形を肩に乗せたものもいれば、大きなワームみたいなものを首に巻いた会社員もいる。
主婦がごみ袋を抱えている後ろを、ゴリラのような外見のそれが、えっちらおっちら支えながらついていく。
赤い炎と、灰色の炎は、氷雪と火炎をまき散らし空を飛び。
矢じりのような黄色い蜥蜴と、二枚貝が速度を競う。
六花は胸いっぱいに、朝の空気を吸い込んだ。
むせかえるような、花の匂い。
春が、目前に迫っていた。
六花は歩く。
やがて、辿り着く。
それは、奇妙な屋敷だった。
岬の高台に建つ、切妻屋根の、二階建て木造住宅。
不思議と、その家の周りにだけは、誰も寄り付かない。
六花だけが、好んでこの家を訪ねる。
チャイムを押そうと指を伸ばしかけて、六花はやめた。
代わりに、ノックする。
10回ノックする。
六花にはこの行為の意味がわからないけれど、しかし、それがかつて自分を救ったことを知っていた。
彼女は根気良くノックを重ね──
やがて、ぶちぎれて扉を蹴破った。
勢いのまま二階へと駆け上がり、もう一枚扉をぶち破る。
そして──
「──なによ」
「────」
「なによ、やっぱりここに、いるんじゃない……ッ!」
そして、ぼくと再会する。
「やあ、おはよう、六花ちゃん。いい朝だね」
ぼくはなにも変わらない調子でそういって、彼女はなぜか、顔をくしゃくしゃにした。
「ええ……いい朝よ」
「どうして、ぼくはここにいるんだろう?」
「世界中の人たちが、あんたが生きることを望んだからよ」
「ぼくは、ここにいてもいいの?」
「当たり前じゃない。だって、あんたはあたしの──
追突されたような衝撃。
ぼくは彼女に抱きしめられていて。
ぼくも、彼女を抱きしめ返す。
「六花ちゃん、あのね」
「わかってる。大丈夫よ。あたしは、ちゃんと考えたの。だから、こんどはきちんと、あんたの名前を呼んであげられるわ」
ぼくの。
ぼくの名前は。
「あんたの名前は、
安らかな居場所をつくる、六花に連なる星の名前。
一文字違えば、なるほど、たしかに支配者──
かくて、ぼくという存在は確定される。
世界を構成する役者の一覧に、この瞬間ぼくの名が、安里昴の名が刻まれたのだ。
「六花ちゃん」
「なによ」
「こんなにうれしい事って、ないね」
ぼくがそう言うと、彼女は目を大きく見開いて。
それから、くしゃりと破顔して、こういった。
「オカエリナサト、あたしの昴」
「うん、ただいま」
そして、新たな世界の創世は終わった。
ぼくらは確かに、救世主によって救われたのだ。
ぼくと彼女は、ここでこれから、平和に生きていくだろう。
世界の中心で、冒涜的にうごめく緑色のタコは、すべての信仰を束ねて、上機嫌に物語を紡ぐ。
「くー!」
これは、夢見るままに待ち至った──
いつまでも語り継がれる──神様たちの、
God-Bless with everyone!
ガチャ@くとぅるふ! This is HappyEnd!
ガチャ@くとぅるふ! 雪車町地蔵@カクヨムコン9特別賞受賞 @aoi-ringo
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