──回天── ようこそ、ハローワールド!

「BGMセレクト! 舞台は──ドリームステージです!」


 朱里子さんのナレーションをきっかけに、ぼくと六花ちゃんが口上を読み上げる。


「戦いの殿堂に集いし神たちが!」

「宙を舞い、地を蹴り、ゆる邪神がメダルを砕く!」

「これがSAN値バトルの究極進化系!」

「「バトォォォル──Let's go ahead!」」


 そして流れ出すBGM。

 それは、これまで聞いたどんなBGMより優しく、どんなBGMより心が躍る音楽だった。



『Welcome to ようこそハローワールド!

 今日もドッタンバッタン大騒ぎ!』



「先行の手番は頂くわ! BIG偉大なる C くーちゃん アクション!」

「くー!」


 くーちゃんの背後の羽──飾りだっと思っていたそれが、大きく蠢動。

 次の瞬間、巨大化した翼は、周囲に再度展開されていたメダルを一撃で打ち砕く。

 くーちゃんは初期のゆる邪神、つまりは初心者向け。

 だから、コンボさえ成立すれば、一瞬でスキルを発動できる。

 事実、立花ちゃんは速攻で宣言する。


「くとぅるふの呼び声LV1! ! クトゥルフ神話眷属邪神群──知る限りのすべてを召還する!」

「くたぁー!」


 吠えるふたりの気勢に合わせ、くーちゃんの背後からそれは現れる。

 彼女たちが今日まで戦い続けた、無数のゆる邪神──ハスター、イタカ、クトゥグア、ノーデンス、チクタクマン、闇をさまようもの、黄昏なる黄金猫……その他もろもろ、そのすべてが!



『くー! にゃー!

 高らかにSAN値捨てれば 邪神ズ

 喧嘩して オッペラスッチョンしても仲良し』



「ふっふっふー!」

「くー!」


 楽しげに笑う立花ちゃん。

 楽しげに踊るくーちゃん。

 その背後から飛び出したゆる邪神たちも、メダルを砕きながら、信仰を集めながら。

 とても、とても楽しそうにはしゃいでいる。


「ぼくも」


 そう、ぼくも。

 まけやしない!


「えい!」


 触腕を大量展開。

 さらに両肩についた貝殻を、ブーメランのように飛ばし、メダルを砕いてコンボを刻む。


「ねぇ!」


 立花ちゃんがぼくを見る。

 ぼくも立花ちゃんを見る。

 彼女は、花が咲いたように笑い。

 ぼくも、たぶん──


「一緒に遊ぶって──さいっこーに、楽しいでしょ!」

「──うん!」


 ぼくが頷くと同時に、立花ちゃんが第二スキルを発動。

 夢見るままに待ち至り……その真の力──砕いたメダルすべてがコンボになる!


「くー! くーくくーくーくーくくくー!」



『邪神はいても 邪悪はいない

 本当のイアはここにある

 ほら 君も 手をつないで大冒険』


「ワン」

「ツー」

「「スリー!」」


 ぼくと、そしてくーちゃんの最終スキルが、同時に発動する。

 くーちゃんのそれは、絶対的なレジスト能力だ。

 どんな能力もねじ伏せる、まさに王の力。

 だけれどぼくの夢想転世は、世界そのものを創り変える力。

 逆立ちしたって、くーちゃんでは力不足のはずで──


「さあ、いまこそ使うンダ! なんために、アイテムなんてものを実装したと思っているんだネ!」


 満面の笑顔で叫ぶタナトスさん。

 そうか。

 やっぱりあれは。


「アイテムを使用! グリュ=ヴォ! 効果は──」


 グリュ=ヴォ。

 それは、邪悪を打ち倒すために集った、すべての始まりの星の名前。

 あまねくすべての、清らかなるものが産まれる場所。

 そして、運命へと叛旗を翻す宿星!

 いま、くーちゃんが、その真の力を──姿を示す!


「おおーっと! 全国80億のくーちゃんの召還プレイヤーの皆さん! 見えていますか! いま、すべてのプレイヤーが初めに手にするゆる邪神くーちゃんが、その姿を現します! あ、あれは、まさか!? あの威厳のあるラブリーチャーミーは!?」

「旧神の星を食したことで覚醒すル、究極のスキル! その名はCoC。つまり──Change Of Cthanid──クタニドへの変神!」


 そして、それは目覚めた。

 旧き神の王。

 この宇宙すべての善なるものの化身。


「クタニド!」

「くたぁー!」


 くーちゃんが、クタニドが、虹色のオーラをまとい、舞い踊る。

 両眼に集うのは、いつかみせた虹色の光。

 それは、すべての生けとし生けるものが持つ、希望の輝き。

 命の煌き。


「いま、世界中の人たちが祈ってる。朱里子ちゃんのカメラを通じて、ディスプレイの向こう側で。いままでのあんたを見続けてきてくれた、ぜんぶのひとが。たぶん、あんたのために、笑顔で、楽しく、心から。平和で幸せな世界が、いつまでも続きますようにって」

「それが本当なら、素敵なことだね」

「ええ、すごく素敵なことよ。だから──奇跡だって起こるわ! 一度きりでも、何度でも!」


 彼女のその意思は、どこまでも愚直だった。

 だからこそ、まばゆく輝くものだった。

 ぼくは、思わず目を細めて。


「くーちゃん、やっちゃって!」

「く──たぁー……ッ!」


 そして、放たれる。

 あらゆる邪悪を、争いを、悲劇を癒す、エルダーゴッドの光が。

 ぼくは避けることもなく、その光を全身に浴びて。



『いあいあ、いあいあー Oh,Welcome to the ハローワールド!

 いあいあ いあいあー 集まれ神たち

 いあいあ いあいあー Oh,Welcome to the ハローワールド!

 いあいあ いあいあー 素敵な友達』



「……ねぇ、くーちゃん」

「くー」

「ぼくのこと、食べる?」

「くー!」

「そうか。なら……」


 それなら、また、ゼロから始めるのも、悪くない。

 天を回らせ。

 いま一度、彼女のための、物語を──


「ようこそ、ハローワールド♪」


 そう、いま笑顔で、立花ちゃんが歌うように。


 ぼくは、そのとき知った。

 ようやく思い知った。

 いまこの場所で、誰に信仰が集まっているのかを。

 誰が、どんなことを願っているのかを。

 そして、それが当たり前だったことを。


 世界のすべてを、虹色の光が覆いつくす。


 ぼくははじめて、観たい夢を、自分で決めた。


 そう、この催しものの観客は〝ぼく〟だったのだと。

 やっと、理解できたから。


初めましてハロー? 聞こえていますかハロー  新しい 世界  ニューワールド?」



 ぼくとくーちゃんのスキルが合わさり。

 いま、新しい世界が──創世される。





 LAST ROLL ── 夢見るままに、待ち至り

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