Re:第二十回転 悲しみなんてない世界
「そうか──そこにいるのか。そこにいるんだね……くーちゃん!」
「くー!」
やってきたのは、くーちゃんだった。
いや、くーちゃんだけじゃない。
この奇妙な日々の中で、ぼくらが関わったくたさんの人々が、銀の鍵の門から、次々にあふれ出してくる。
「このような収益がたかそうで、なおかつ楽し気な催しから私を省くなんて……あまりに後生ですよ、少年くん!」
スマホを掲げ、インカムをつけた和装のお姉さん。
礼坂朱里子が降ってくる。
「ゆーちゅーぶで! これを放送すれば、人気は約束されたようなもの! お金ががっぽりかつ、くーちゃんの召還の販促にもつながりますから、逃す手はありません! ついでに、礼坂印のサブカルグッズも大量販売──」
「ああ! 礼坂女史がこれほどハッスルするのも理解できる! 私すら手にしたことのないアザトース! その戦いがここに刻まれるのだからな!」
朱里子さんの言葉を遮ったのは、ミラーグラスを装着した、颯爽たる女性──マスターガーチャーだった。
「踊るのだ……全力で! 少年よ、なによりも君が楽しむべきなのだ! これが、私から君へと送る……最大限のエールだ!」
「そうよぉ~、楽しまなくっちゃ損するわ~」
「騎士とは常に正々堂々。だが、清々しい戦いも一興」
お姫様のような恰好の少女と、騎士のような恰好の少年──あの双子も、ぼくにそんな言葉を投げかけてくれる。
「というかなぁ……僕を完全に省いてたの納得してないからなぁ……! 僕だって、すでに君の友達さぁ……案じもするし、一緒に遊びたいとも思う!」
そう言ってくれたのは、メイド服を翻す呀太守くんだった。
「六花さんの友達は、僕の友達だ! それが困っているな、手を貸すに決まっているんだよねぇ……!」
「そう、吾輩らはつまり助け合い! 相互扶助こそ世界の真理なんだがネ!」
いつか見た、ジャグラーのような服装で、ツインーテールを風になびかせる褐色の女性。
郁太・T──タナトスさん。
「この次元連続体への、一時的な接続は吾輩が責任をもって維持してみせル! ナニ、ジッサイ吾輩下っ端だが、この程度は余裕なのだヨ! 君たちという無二の観客のためなら、一肌も二肌も脱いで見せようトモ!」
彼女はそういって、実際に全裸になって見せた。
周囲に浮かんでいたティンさんが、慌てて大事な部分を隠す。
そう、人だけじゃなくて。
たくさんの、ゆる邪神たちまでやってきていたのだ。
「あおーん!」
「にゃぐー」
「ふぉー!」
「あい!」
「にゃー」
「くー! くく、くー! くーーーー!」
そして。
すべてのゆる邪神たちから押し出されるようにして地面へと着地したくーちゃんは、ぽよんと跳ねて。
六花ちゃんの、足元へと落ち着いた。
わっせわっせと起き上がったくーちゃんは、六花ちゃんに向かって、なにかを投げ渡す。
それは、ぼくのスマホだった。
朱里子さんが、空の上から声を投げてきた。
「六花さん、中継は私にお任せください! いまアクセス数がすごいです! ああ、すごい、お客様、あー! あーお客様すごいです! いま40億人ぐらいみてます……!」
「よし、ならば実況は、このマスターガーチャーが大人げなく引き受けよう! なに、これほど胸躍る祭典だ、こうもなろうというもの!」
「補足は任せ給え。吾輩、これでも開発者ゆえニ!」
次々にステージへ上がるみんなが、口々にそう言って。
自分にできる最善を尽くしていく。
六花ちゃんが、くーちゃんを抱き上げながら、顔を上げる。
「……いったわよね、あたし。こっからは、あたしたちのステージだって」
そこに刻まれていたのは──これ以上ない勝気な笑顔だった。
「あたしは、愛をあきらめたくない! 悲しみなんてない世界──目指したいじゃない!」
「────!」
その瞳に宿る凄烈な光を。
そこに燈る清浄な輝きを。
そのとき、ぼくは確かに見たのだ。
無限に等しい歳月の中で。
終わることのない、終焉ばかりを繰り返してきた、眠りと覚醒の日々の中で。
一度も目にしてことのなかったものを。
本当に──
美しいものを、見た。
「────」
だからだろう。
気が付けば、ぼくはそうしていたのだ。
無限に続く、光のような彼らを前にして。
無から作り出したスマートホンを片手に。
諸手を挙げて。
「やろう、六花ちゃん! ぼくらの戦いを!」
「当たり前でしょう? Show must go on! あたしたちの物語に幕を下ろすなんて、まだまだ全然、これっぽっちも足りないのよね! だから!」
「加減はなしだよ、六花ちゃん!」
「一番初めっから、そうしたでしょうが──! いくわよ、くーちゃん!」
「くー!」
そして、ぼくらのラストバトルが始まったのだ。
最後の。
そして、すべてを始めるための、戦いが。
Re:NEXT ROLL ── ようこそ、ハローワールド!
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