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Re:第十九回転 乱逆の物語 -メビウスの輪-
「ニャルラトホテップの間の手を逃れたあたしを待っていたのはまた、地獄だった。混沌のあとに棲みついた欲望と怨嗟。神意大戰が産み出したドリームステージ。悪徳と野心、退廃と絶望とをコンクリートミキサーにかけてぶちまけたここは、どこともわからない惑星のゲヘナ。次回『ぼくを殺して』。来週も、あたしと地獄に付き合ってもらう……そういうわけね?」
長々と悪ふざけのような言葉を尽くして、彼女はまるでぼくが冗談を言ったかのように笑うけれども。
残念ながら、こればっかりは嘘にできない。
ぼくが
「六花ちゃん。きみは、あの世界へ戻らなくちゃいけない。きみという核をうしなえば、たやすく希望にあふれたあの世界も、瓦解してしまうから」
「だったら、あんたも一緒に来ればいいじゃない」
「この姿で?」
ぼくは自嘲的に肩をすくめる。
それに伴って、異形の肢体がぶらぶらと揺れる。
「いま、本来滅びたはずのこの世界を定義しているのは、ザーダ=ホーグラとしてのぼくだ。そして、その振る舞いは、すぐに新たな次元にあるきみの世界を滅ぼしてしまうだろう」
「……なにいってるのか、ちっともわかんないんだけど」
「まるでいつもの逆だね。こちらとあちらは繋がった風船のようなものなんだ。こちらが大きくなるには、あちらがしぼむしかない。そして、ぼくがここにいる限り、空気はこちらに流れ込み続ける」
「じゃあ、やっぱり一緒に帰ればいいじゃない!」
彼女はこぶしを握ってそう力説するが、ぼくには首を振る以外の選択肢がなかった。
「なんでよ!」
「ぼくはこの世界で再び産まれた。あちらの世界の住人じゃない。だから──帰れない」
そもそも、帰る場所は、虚無ぐらいのものだ。
「大丈夫だよ、六花ちゃん。きみはぼくをたやすく殺せる。ほんの少しちからを込めて、この心の臓をえぐればいい」
「あたし、小学五年生のか弱い女の子なんですけど」
「一番夢を見るには適した年頃だからね。だからここでは、なんだってできる」
ぼくのそんな答えに、彼女は沈黙した。
沈黙して、そのままうつむいてしまった。
長い、長い時間が過ぎた。
彼女はずっと、なにかを考えていて。
ぼくはただ、滅びが来る一瞬を待ち続けていた。
やがて、彼女が顔を上げる。
そして──こう言った。
「なら、最後に思い出が欲しいわ」
思い出? ぼくとの?
そんなものに、なんの意味が?
「意味なんてない。でも、価値はある。勝負よ、アザトース。あたしと──」
SAN値バトルしなさい!
彼女は、大声でそう言い放ったのだ。
「──で、でも、六花ちゃんには、ゆる邪神はいないよね?」
ぼくは、ぼく自身が邪神だから、なんとかはなる。
だけれど彼女は人間だ。
その起源は人間ではなかったとしても、彼女はいま、あの世界の盟主、もっとも繁栄し、もっとも平和を甘受できている種族、人類のひとりであるはずなのだ。
彼女は、神ではない。
邪悪でもない。
ならば、SAN値バトルなんて……
「SAN値バトルはfanaticを奪い合って行われるものよね? そして、fanaticは信仰心のこと。それで、あんたはすべての神様から信仰されている、一番偉い神様。だから、さっきまでみたいなことができた。間違ってないわね?」
「それは、あってはいるけれど……」
「だったら!」
「ッ」
「だったら、あんたに勝てば、すべての信仰はあたしに集まる! あたしとゆる邪神にあつまる! それが、あんたの代わりになる……!」
ぼくは絶句する。
理論上はそうだ。たしかに理論の上では、そうなのだ。
だけれど、それは口にするほど簡単なことではないし。
そもそも、やはり彼女の手元には、ただ一柱だって邪神は──
「ここは、すべてが終わっていて……でも、すべてが揃っている場所なんでしょう? そして、あたしに帰れっていうようにいまも夢路の門は開いている!」
「まさか……!」
はっとなって、ぼくは空を見上げた。
どこまでも続く赤い空。
一つしかない暗黒の太陽。
そして、銀の鍵の門。
その扉が、開いて──
「今度はあんたが刮目する番よ、孤独を気取ってる
そして、それはやってきた。
それらはやってきた。
ありえないはずの場所へ、ありえないはずの〝彼ら〟が!
「くー! くっくー!」
くーちゃんの。
くーちゃんたちの、大軍勢が!
Re:NEXT ROLL ── 悲しみなんてない世界!
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