第25話 ごく平凡な日常


 昼前になってようやく先代は覚醒した。覚醒と言うか目を覚ましただけだけどな。うん。午前中は安らかに寝かせておいた方が良いかもしれない。

 双子を預かる間の仕事は、二人が居ても問題ない仕事ばかりだ。緊急の仕事が入った場合はその限りじゃないけどな。魔物の襲撃とかはさすがに動くけども。

 ザクッとした感じでは、ユーカさん宅の個人畑の管理、村の草むしり等の簡単なお手伝い、燻製小屋の管理運営等々。まだ幼い双子が居ても問題ない内容だ。アレフィもいるし、先代が家出中は子守りを任せても良いしな。歴代最強の名は、伊達じゃないからなぁ。


 あれやこれやと言った雑事をこなしながら昼食の支度。この双子を預かることは多いので、二人も俺っちの食事には慣れている。マヨネーズも結構好きだから、かなり自由に料理できていい感じだ。


「オイシー!」

「野菜、おいし・・・・・・くないけど食べる」

「オカワリー」

「うにゃぁ。眠いのだ・・・・・・」


 ユーカさんの食に対する方針がかなり厳しいようで、アベルは野菜が嫌いだが出された以上は仕方なく食べる。ドロシーはゲテモノの類でも何でも食べる。アレフィは言わずもがな。先代は、基本的に一日一膳いちにちいちぜんだけらしいが、一人だけ何も食べさせないのは虐待してるように見られるのは嫌なので、野菜スープをだしている。

 双子が近所の子らに『ネコさんに何も食べさせてないんだよ!』とか言われたら、俺っちの評価が下がるからな。アレフィ事件後の噂の訂正には苦労したぜ・・・・・・。


「んで、昼からは二人は遊びに行くのか?」

「うん。約束してるしね」

「行ってくるね~」

「そっか、気をつけて行くんだぞ。あ、そだ、夕飯に食べたいものとかあるか?」

「うんとね、うんとね、ハンバーグが良いなぁ。野菜抜きで」

「アタシはステーキが良い! 分厚いの!」


 うん。子供ってどうしてこんなに肉が好きなんだろうね。

 ピグゥーなら、熟成肉があるからしばらくは大丈夫だろう。ハンバーグに野菜のみじん切りを入れて食べさせるか。アベルには大きめの野菜入りハンバーグと小さめステーキ。ドロシーにはその逆だな。野菜を食べさせておかないと、ユーカさんが怖いからなぁ。新しいマヨネーズを使った料理レシピのためにも、ここはキッチリやらないとな。


 双子を送り出したら、広場の草むしりだな。アレフィは新規開拓地の土起こし。龍の馬鹿力はこういう時に便利だよな。先代は・・・・・・何かあったときのために事務所に待機かな? 大抵のモノなら対処可能だろう。ジャンヌさんに鉢合わせしても面倒だし。

 さて、今日もお仕事を頑張るとするかねぇ。




 

 広場の草むしりも終わり、むしった草を袋に詰めているときに、ジャンヌさんはやってきた。

 この人、来るタイミングがいつも最適なんだよな。気配察知能力とかが高いのか、もしくは何らかの感知系魔法なのかねぇ。魔法の使えない俺っちにゃ分からないけども。


「何でも屋さんこんにちは。また例のアレ。何でも屋さんの家に来てるんじゃないのかしら?」


 アレとは先代のことだろうな。


「えぇ。なんか家出中らしいですよ。魔王城を追い出されたとか」


 事実とはたぶん違うが、先代の主張を前面に押し出した回答をしておく。


「ぷふっ。家出中? 本当に?」

「えぇ、なんかそうらしいです。いつでも来ても良いですよ、といったらうちに来たみたいですね」

「あら? そうなの? それは迷惑よねぇ」


 うん、どこか刺々しい。まぁ、先代には思うことがたくさんあるんだろうな。


「いえ、まぁ、特に問題があるわけではないですからね。ジャンヌさんには申し訳ないですけど、私には祖父みたいなものでして。見た目はアレですけどね」

「祖父ねぇ。そう言えば何でも屋さんは魔王の・・・・・・あ~、なるほどねぇ。アレは、なにかちょっかいをかけるために来てるわけじゃないのよね?」

「えぇ、現魔王に『出て行って下さい!』と言われたそうです」

「あら? それってもしかしたらだけど」

「まぁ、そうなんですけど、現魔王にわざわざ訂正の使者を出すほどじゃないですしね」


 むしろ喜ばしい出来事だしな! はっはっは。精々右往左往するがいい!


「あまり仲が良くないって噂、あれ、本当だったのねぇ」

「えぇ、アレはダメですね。アレは」

「なら良いわ。もめ事にならないなら放置でいいわね」

「私が物心ついたころから大人しいですよ。怒った所を見たことがないですし」

「アレは・・・・・・そうねぇ。闘いの最中も楽しそうでしたわねぇ。なら問題ないってとこね。それならいいわ。お仕事頑張ってねぇ~ん」

「はい! お疲れ様です!」


 ジャンヌさんのお墨付きが出れば、先代の滞在も大丈夫だろう。最大の不安要素が無くなったな。


 さて、次は夕食の準備かな。

 俺っちは、むしった草の入った袋を持って事務所へと戻った。


 事務所に戻ると、日当りの良い場所に先代が寝ていてホッコリとした気分になった。ツンツン突くと、『うにゃぁ~』とか言いながら伸びたりしている。太陽を浴びた猫の香りは悪くないかもしれない。

 マジに可愛いな。抱き着いたりしたらヤバいだろうか? もしくは、一緒に横に寝ても良いかな? じぃじぃ~とか言いながら横に寝たら許されるかな? でも、見た目はアレだが、これでも先代の魔王だからなぁ。マジ悩む。


 うん、ケットシーのいる生活って意外と良いものだ。先代が帰城したあと、何処からかケットシーの受け入れでもしてみるかなぁ。確かにこれはヤバいくらい可愛いし、心が安らぐ。そりゃこぞって飼いたがるわけだわな。



 





「ハンバーグおいしい! カイムありがとう!」


 うむ。仕込んだ野菜には気づかれていないようだな。よしよし、これからも密かに食べさせてあげるからな。


「ステーキ最高! おっちゃんは好きなものを食べさせてくれるから大好き! 結婚して!」


 ドロシーはいつも通りか。ってか、ドロシーはチョロイな。大丈夫かこの子? 


「マスター! きょうもオイシー。いつもアリガトー」


 アレフィは・・・・・・・何を食べさせても変わらないが、まぁ、一応は褒めてくれるから良しとしよう。


「ニャフフフ、ニャフフフ。カイムにょ作るりょ~りは美味しいにょだ!」


 先代の酒量は大体把握した。そろそろ酒を制限しないと一昨日の晩みたいになるからな。心を鬼にして・・・・・・うん、ダメかもしれん。魔王城の奴らが甘やかすのも判る気がする。こりゃアカンわ。


 食事が終わったらお風呂の時間だ。我が家にはユーカさん監修の、薪式給湯器が完備されている。薪を燃やしてお湯を温めるタイプだ。そのため、この村は辺境の地にありながらも魔王都並の生活水準を維持できている。稀人の知識に感謝だな。


「二人とも一人で入れるようになったのかな~?」

「カイムのおっちゃんと一緒が良い!」

「アタシはネコさんと!」

「ボクもネコさんと!」


 いや~、酔った状態で風呂につけるのはヤバいらしいから、みんなで入るとするかね。そうすりゃ先代を見張りながら風呂に入れるし。湯船につけなけりゃ大丈夫だろ。

 あ、俺っちは幼女愛好家じゃないから、こんなお子ちゃまの裸を見ても特に思うことはない。



 風呂が終われば後は寝るだけだ。ベットの数が足らないが、床に布を敷いたうえで寝具を並べればいいだろ。仲間外れはダメだからな。


「ネコちゃんと一緒! おっちゃんありがとう」

「ネコさんはアタシの隣!」

「ボクも~」


 うん。あれだ。先代を中心に、三角形を描くように配置しよう。これなら3人とも先代の傍で寝かせられる。アレフィは双子から少し離そう。見目は幼女だが、超重量の生物だ。先代は大丈夫だが双子がやばい。

 まさかこんなことで悩むことになるとはねぇ。ま、この辺りはおいおい考えるとしますかねぇ。

 と、この日はみんなで仲良く就寝したのであった。


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 槍使いの剣聖 にゃむにゃむ @nyamunyamu

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