第24話 家出中
先代に、なぜ追い出されたかと聞いたらこんな感じだった。
「要件をカイムに伝え忘れていた吾輩が悪いだけなのだ。カイムはもてなしてくれてお土産までくれたのに、イネスの奴めは『賄賂を受け取ったのですか?』とか言ったのだ。そして、これは回収しますと言って取り上げたのだ。酷いのだ。そして、吾輩に出て行って下さいと言ったのだ! 吾輩、カイム以外に頼る相手は居ないのである。申し訳ないのだが、カイムの家に置いて欲しいのである・・・・・・」
うん。把握。
あの魔王の考え方からすれば、『説得に行ったはずなのに丸め込まれてどうするんですか?』と。そして、『お土産と言うか、賄賂ですよね? それ』と言って取り上げたというか、物には罪はないので、あとで食事に出す予定で保管目的で取り上げたんだと思う。先代は自己管理をしたかったみたいだが。そのあたりの齟齬が要因で生まれた不幸なすれ違いだな。たぶん、『出て行って下さい!』と言ったのも、こめかみを揉みながら『この部屋から出て行って下さい!』と言ったつもりが、良くも悪くも心が純粋な先代は、隠居した後も間借りして住んでいる『魔王城から出て行って下さい!』と解釈したんだと思う。魔王在任中から甘やかされて生きていた先代が、城から追い出されて生きていける訳もなく・・・・・・昨日のやり取りから
魔王城の門番も、軽く散歩に出るためだと思って外出を許したんじゃないかと思う。まさか、城から追い出されたと勘違いしてるとは思わないし。なんだかんだで、隠居後も魔王城の皆に愛されてたみたいだし。
だとするとだ、夜になっても戻らない先代に、魔王城は上に下への大騒ぎになってる可能性があるな。
それ、なんて楽しい状況だろうか。あの腐れ魔王が右往左往してるかと思えば、胸がスカッとするわな。
よし、先代がここに居るってのは暫く内緒にしておこう。
しっかし、全世界最強級の存在が2体も存在してて、先々代の魔王と、魔王に匹敵するといわれる俺っち。この村の戦力だけで、世界征服とか出来るんじゃね? 面倒だからやらないけどもな。征服した後の統治とか、絶対無理だし。脳筋魔王と脳筋風味な俺っち、破壊力は最高だが戦闘力以外は微妙な先代魔王と災厄の龍。うん、征服できるけど、その後が続かない。世界滅亡へのフラグにしか見えねぇ。
さて、先代を受け入れるのは問題ないが、問題はジャンヌさんだよなぁ・・・・・・。マジでどうすんべ。出合ったら即バトルとかって展開にならないのをマジに願うぜ。
と言った感じのやり取りが、昨晩に有ったわけで。
んで、今現在に至るわけだ。
そして分かったことが一つ。先代、朝がメチャクチャ弱いみたいだ。
何だこの猫型スライム? って位に朝はダメみたいだ。なんかグニャグニャしてるし。昨日の朝は、ブラシで無理やり覚醒させたから動いたのだろうか?
かといって部屋に置いておくわけにもいかないので、そのグニャグニャした先代を抱きかかえて、家を後にした。向かう先はユーカさん宅。旅行の見送りと、双子の受け入れ。うん、魔王の用事よりもはるかに大事だわな。
「んじゃ、行ってくるわね。アベルもドロシーも、良い子にしてるのよ」
「わかってるよ。お土産買ってきてね?」
「いってらっしゃ~い!」
アベルはユーカさんの足元でモジモジしてるが、ドロシーは俺っちの肩の上。いわゆる肩車をさせら・・・・・・してあげている。なんでこう、高いところが好きなのかねぇ。この子は。
「カイムにも迷惑かけるとは思うが、うちの子らを頼む」
小さな背丈で、少年のような甲高い声をしていながら重々しいセリフを吐きだしているのは、ユーかさんの旦那のアーカンサスさんだ。生粋のホークウッド村人で、初期入植から数えて三代目だ。草原の小人もドワーフ族の例にもれず、そこそこ長寿だからだな。
ユーカさんお手製の化粧水とかでのお手入れをされているらしく、小人族では壮年域に入ってはいるが、その容姿は少年そのものだ。幼い男の子が好きというユーカさんには、最高の相手何だろうな。
あの腐れマヌエルも同じような趣味だが、ユーカさんは一途だからな。あの見境のないド腐れとは一緒にはできない。
「はい。お任せください。今我が傭兵団には、客将を迎えておりまして、戦力としては世界でも類を見ない強さを誇っております」
俺っちの傭兵業は、アレフィを従業員としたことで『傭兵団』を名乗っている。え? 二人なのに誇張し過ぎじゃないかって? いいんだよ。こ~ゆ~のは言ったもの勝ちだからな。
「あら、そのケットシー族かしら?」
俺っち腕の中でぐんにゃりとしている先代に目が止まったようだ。
「えぇ、先代の魔王様です。故あって我が家に逗留なされているのですよ」
先代様は家出中・・・・・・とは言わない。常に真実を伝える必要はないのだよ。
「ケットシー族だもんね。・・・・・・そうよね、朝は弱いらしいものね」
ユーカさんの先代を見る目が、何か胡乱なモノを見るかのような目つきだが、まぁ、このぐんにゃりとした生物が、歴代最強の魔王と呼ばれた存在とは、そうそう受けいれられないわな。
アーカンサスさんは、さすがは魔族の一人、先代の力量に気づいているのか、居住まいを正しているようにも見える。だからこその重々しい口調なんだとおもう。目の前の夫婦のいちゃつきっぷりは、砂を噛む思いをする羽目になるくらい甘々だからなぁ。
村の入り口の方を見ると、龍車が到着しているのが見えた。龍車とは、走騎龍で曳かせる馬車のようなものだ。頑強な金属の車体で、多少の魔物は蹴散らしながら進み、『龍装甲車』とか『暴走特急』の名で親しまれている辺境の足である。
かなりの高い技術で作られているらしく、見た目の豪壮では考えられないほどに居住空間は整えられていて、中に居るとほとんど揺れないくらいだ。かなり昔の稀人が、馬車を魔改造した結果らしい。それにしても、魔改造って何だろうな? 魔族仕様の改造ってことかいな?
「龍車もきたようですね。それでは行ってらっしゃいませ」
「いってらっしゃ~い」
「はい~ぃ。いってきま~す」
「それでは行ってくる」
「いってらっしゃい!」
「いってら~!」
龍車に手を繋ぎながら乗り込んだ二人を見送りのあいさつで送り出した。
『ガキャキャキャキャ』と、かなり激しい音を出しながら、龍車は急加速であっという間に見えなくなった。
「さて、またしばらくヨロシクな」
「うん、カイムのおっちゃんもヨロシクです」
「ヨロシー」
俺っちは、双子を引き連れて事務所に戻った。
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