第23話 うっかり者
「ニャハハハハッ! これは旨いにょだ!」
「ささ、もう一杯どうぞ」
「ニャハハハハッ!」
先代は、上半身をグニャグニャさせながら笑っている。うん。相変わらず酒に弱いお方だ。
さて、これだけ酔わせたら大丈夫だろう。ここに来た目的を改めて聞くとしますかね。
「先代様、ここへはどのような用件で?」
「うにゃうにゃ・・・・・・それをはにゃすにょはイニェスに止められているにょだ」
うん。フニャフニャと聞き取りにくい。
「あ、そうですね。酒の肴にポタットサラダとかどうでしょうかね?」
蒸して潰したポタットと砕いたゆで卵とプギィの燻製肉を短冊切りにしたモノを混ぜ合わせ、マヨネーズで和えた、特製ポタットサラダだ。これがまた酒に合うんだよな。
「アレフィはこっちを食べろ」
アレフィには、大きめの深皿に入れて渡してやる。基本的にアレフィはマヨネーズを嫌う。だが、何かと混ぜ合わせたら何とか食べられるようで、少しずつマヨラーへと洗脳中だ。いつか必ず『マヨネーズが好き』と、言わせて見せるぜ。
「オイシー」
コイツは、よほどのゲテモノじゃない限り『オイシー』としか言わないので、味覚障害とか気にしなくても良い気がするんだよな。まぁ、ユーカさんの目があるから普通の食事をさせるけども。
「どうです? 美味しそうでしょ。はい、あーんしてください」
サラダをスプーンにのせて先代に差し出すと、『あーん』と口を開けたのでサラダを差し込む。
「にょふふふ。うみゃいにょら! もっと食べるにょら!」
サラダを差し止め、さっき聞いたことをもう一度訊ねた。
「こんな辺境までどんな用事だったんです?」
「にゃふぅ。こにゃいだマニュエルが来たと思うにょ。マニュエルが逃げ帰ったので吾輩が来たにょら! あーんするから次が欲しいにょら」
バンバンとテーブルを叩きながら口を開けた先代にサラダを食べさせる。うん。あれだ、かなり可愛いと思う。今はかなり高齢なはずだが、見た目が猫なんで年齢は良く分からない。その昔、魔族中を魅了した存在は、今も健在といったところか?
「イニェスにたにょまれて来たにょら。あいつ最近ひとづかいが荒いにょら。吾輩をこき使いすぎにゃのら。吾輩はもう年寄りにゃにょら、カイムも、じ~じと呼んでも良いにょらよ?」
もう、何も言わずに口を開けるので、次々にサラダを食べさせていく。
昔は親父が先代の側近だったため、俺っちが幼いころは先代を『じぃじ』と呼んでいたのを思い出した。小さい頃だったのでそう呼んでいたのだが、物心ついたころには背が先代を追い抜いたので、そのころから呼ばなくなったんだっけかな。懐かしい記憶だ。
「にょふふふ。うみゃぃにょら。うん、しょ~かんじょ~を無視すりゅカイムも悪いにょら。カイムのチカラが要るにょらよにょ。ふんそ~はかにゃり分が悪いにょらにょよ」
段々と『にゃふにゃふ』としか言わなくなって来たので要約すると、魔族と人族の紛争は人族の大陸の魔王領で行われているらしく、城を守らなければならない魔王は出撃できない。そこで、魔族でも有数の戦力たる俺っちに対する出撃命令を出したってトコらしい。マヌエルは魔王を連れて来いと言われたが、魔王本人を連れ出すわけにはいかないので隠居している先代に相談に行ったらしい。んで、その時に先代の俺っちに対する極秘指令が現魔王に知らされ、隠居して暇をしていた先代を担ぎ出し、今に至るというわけだ。戦力的に強大すぎる先代が出撃すれば事は丸く収まりそうなものだが、下手に元魔王を出すと、また人族が勇者召喚とか始めそうなので出来ないとか何とか。
「にゃふにゃふにゃふ~」
先代は完全に酔いつぶれたらしく、椅子の上で半分溶けたかのように脱力している。うん、少し飲ませすぎたかも知れん。仕方ないのでベッドへ運び、俺っちは事務所のソファで寝たのだった。
翌朝、早朝の鍛錬を終えたあたりで、半分寝ぼけた先代にアレフィと一緒にブラシをかけてやり、『にゃふにゃふ』と朝から悶絶させ綺麗に記憶を飛ばしてから、マタタビ酒を土産に持たせ、何事もなかったかのように送り出したのである。
うん。昨晩からの色々な仕込みで、何をしに来たのか綺麗サッパリ忘れていたな。なんつ~か、マジでチョロイお方だよな、あの人。
保有戦力は歴代最強だが、元魔王とは思えないくらいのチョロさ。在任中はこんなにチョロイ人だとは、露にも思わなかったな。一緒に酒を飲むこともなければ、床を共にすることもなかったからなぁ。引退して初めて分かったあのチョロさ。うんうん、親父の言ってたことは正しかったんだな。
さて、今日は広場の掃除と防御柵の手入れ、明日はユーカさんの出立の日だったっけか。しばらくは村から出ない簡単な依頼と、アベルとドロシーの子守りだな。
魔王とあの双子と、どちらを取るかかと言われたら、間違いなく双子を選択するわな。それに、俺っちはある意味隠居の身、魔王なんかの召喚に応じてる暇なんかないんだよなぁ。
この村は俺っちが居なくなるとかなり困ったことになると思うぜ?
あ~、忙しい忙しい。
「あら、何でも屋さん。昨晩、妙なヤツが来てなかったかしら?」
広場の掃除中にジャンヌさんに声をかけられた。
先代の来訪は、どうやらジャンヌさんにはばれていたようである。かつては魔大陸を戦場に
今日のジャンヌさんは機嫌がいいのか、威圧をしていなかったので普通に話しかけられる。威圧時は脅威度が跳ね上がり、何もできないけどもね。
「はい、先代の魔王様が来ておられました。どうやら先日の魔王の使いの代役っぽいですね」
「あらあら、そうなのね。魔王の使いね。分かったわ。それで、どうなのかしら? 何でも屋さんはこの村を出ていかないわよねぇ?」
『約束だもんねぇ?』みたいな目で見られると何も言えなくなる。
まぁ、出ていく気はないけどもな。
「私の第二の故郷ですからね。この村は。なので、依頼以外ではどこにも行かないですよ」
「んもう! 嬉しいことを言ってくれるわね。もし無理難題を吹っかけて来たら、遠慮なくアタシに教えてね」
「はい。間違いなく!」
「んじゃ、またねぇ~ん」
どうやら様子見だったようだ。正直な話、災厄と元魔王、どっちが強いのか良く分からん。が、あの二人が正面から
そして、今日も仕事が終わり、家に向かっているとき、どこかで見たことのある二足歩行の猫がトボトボと歩いているのを見つけた。
「イネスに家を追い出されてしまったのである。大事で大事なマタタビ酒も没収されてしまったのである・・・・・・。吾輩、行くところが無いのである。カイムの家で飼ってほしいのである・・・・・・」
この人、何やってんの? と俺っちは大きくため息をついたのであった。
まぁ、誤魔化して追い返した俺っちが悪いのかもしれないが、マジで何をやってるのかねぇ。現魔王様はよぉ。
もうすぐ夜になろうかという時間帯で追い返すわけにもいかず、今日も先代を歓待することが決定したのだった。
ちなみにアレフィは、『猫さんと暮らせる~』とかで、凄まじく喜んでいたのは言うまでもない。
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