ゾンビ発電

真名千

ゾンビ発電 

絶許出願番号000980

出願人 真名千


はじめに

 ゾンビパンデミックの発生以来、この世の社会インフラは混乱を極めている。発電所および送電網の崩壊により、動作可能な電化製品が手元にあっても使用できない状態が続いている。しかし、生き残った人々が最低限文化的な生活を送っていくために電力は欠かせず、電力の確保は急務である。

 そこで本絶許ではソンビを利用した小規模な発電方法を紹介する。


先行絶許

 これまでにゾンビを用いる発電方法としては、圧電効果を利用して発電する床の上を歩かせる絶許(番号000396)や腐食中のゾンビから発生する可燃性ガスを利用する絶許(番号000464)も紹介されている。

 しかし、これらの方法は発電量が一定ではない、機構が複雑になる、一度に必要とするゾンビ量が多い、などの問題点を抱えていた。

 本絶許はこれらの問題を解決し、機械式で堅牢な発電装置を提案する。


本装置の構造

 本装置の構造は、一階部分の円筒形をした「キャプスタン室」と二階部分の変速装置および発電機をおさめた「発電室」よりなる。両方の部屋の中央を回転軸が上下に貫通し、その両端は軸受けで保持されている。キャプスタン室内の回転軸には2本の腕木が、発電室内の回転軸には動力を伝えるギアやスプロケットなどが取り付けられている。

 基本原理はキャプスタン室にゾンビを導入し、音に引きつけられるゾンビの性質を利用して半永続的に回転運動をさせることで、軸を回転させ電力を得ることである。

 ゾンビの動力はいまだ研究途上なれど、もしも無限に運動が可能な場合は永久機関に近いものが構築可能である(この記述は絶許審査官の指摘により後に削除される)。ゾンビに耐用限界がある場合でも、新しいゾンビを補充することで発電を続けることができる。


キャプスタン室

 キャプスタン室は半径3~3.5メートルの円筒形をした空間である。天井までの高さは2.5メートル、望ましくは3メートル以上あり、中央部に動力軸を通す穴が空いている。屋外への窓はもうけない。発電室からゾンビを観察、処分するための殺ゾンビ孔をもうける。

 キャプスタン室の材質はゾンビに破壊されない頑丈な材質が望ましい。円筒形への加工を考えればコンクリートなどは最適であるが、レンガや切石をもちいてもよい。

 サイロや貯水槽など既存の構造物を利用することも考えられるが、著者が調べた範囲では都合のいいサイズのものを見つけることは困難である。

 キャプスタン室に一度に導入するゾンビの数は5~6体がよい。少なすぎれば動きが不規則になって安定した電流が得られない恐れがある。多すぎれば互いに衝突を起こして、やはり安定した電力が得られない恐れがある。

 この5~6体は実験によって割り出された最適な数である。

 キャプスタン室へのゾンビの導入は、呼び鈴をもちい、接線方向に構築した幅80センチメートル程度の入り口通路からおこなう。入り口通路と円形の室内との間には発電室から操作できる落とし格子をもうける。


回転軸

 回転軸にはφ40以上の丸鋼か、50A以上の鋼管をもちいる。ただし、鋼管を使う場合は軸受けのベアリングへ装着するための追加工がたいてい必要である。旋盤があればよいが、物資不足の現状では創意工夫が望まれる。

 だからといって、木材をそのまま使ってはならない。回転により発生した木くずが摩擦熱で高温になり発火の危険性がある。火事が起これば貴重なゾンビ資源を浪費しかねない。また、地上をゾンビが闊歩する状況ではトラブル発生時の修理もリスクをともなう。

 やむをえず木材を用いる場合は軸受けとの接触部に金属製のキャップを被せるなど、直接木材が摩擦熱を受けないようにしなければならない。材質は樫が比較的よい。

 同じ軸受が確保できなかった場合、耐久性のある方をキャプスタン室に使い、耐久性のない方を発電室に使う。キャプスタン室軸受のグリスアップ等、メンテナンス作業は非常に難しいことを承知しなければならない。

 回転軸は後述の腕木より背の低い安全柵で囲う。これによってゾンビの体当たりによる破損を防止する。


腕木

 回転軸には腰よりやや高い位置に腕木Aとそこから50センチメートル前方の高さ250センチメートル付近に腕木Bをもうける。

 腕木Aの役目はゾンビに押させることで回転軸を駆動することにある。生前も同じ作業に従事していたのでないかぎり、ゾンビが腕木を手で握って押してくれることは期待できない。自然と体当たりの形になるため、ゾンビが胴体で押しやすい高さにする必要がある。

 また腕木が低すぎるとゾンビが腕木を乗り越えようとして転倒する可能性もある。ゾンビによって体格が異なるため、最適な腕木の高さも異なる。可能であればキャプスタン室に導入するゾンビの体格をそろえると効率的な発電ができる。

 腕木Aの長さはキャプスタン室の半径より少し短いくらいにする。

 腕木Aは回転軸に溶接などの方法で確実にとりつけ、ゾンビの損壊を防ぐためにマットレスなどで覆うと良い。マットレスを交換する場合、古いマットレスは必ず入念に焼却すること。

 腕木Aの材質は回転軸と同径程度の鋼管がよい。片側支持でたわむ状態となるため、単位長さあたりの質量が大きい丸鋼はあまり適さない。回転軸と腕木の間に斜め45度に筋交いを入れるとたわみ量を減らすことができる。ただし、腕木の下側に筋交いをつけると安全柵の位置によっては干渉するため、上側から斜め下に伸ばす形で筋交いをつけることが好ましい。


 腕木Bは呼び鈴を取り付け、ゾンビを誘引する役割を担う。そのため長さはキャプスタン室の半径のさらに半分で良い。また、15A以下の細い鋼管でこと足りる。

 なお、強度に不安があれば腕木Aから斜め上に支えを伸ばすこともできる。これは腕木Aの補強にも役立つ。

 呼び鈴はゾンビが回転軸を押す速度で確実に鳴るものにする。これによって言わば、馬に乗った騎手が馬をニンジンで釣るような効果を発揮することができる。

 すなわちゾンビは自分が起こした音におびき寄せられて腕木を押し、その動きが再び呼び鈴を鳴らすことになる。


 しかし、回転が安定するまでの初期段階においては、呼び鈴を発電室から紐で引っ張るなどしてゾンビを誘引しても、ゾンビが右回転と左回転にわかれてしまい、一方向の回転運動をおこなわせることは困難である。

 そこで本絶許では初期段階においては発電機をモータとして使い、腕木をゆっくり回転させることを提案する。そのためにバッテリが必要であり、インバータも備えていることが望ましい。腕木の動きに釣られたゾンビは自然と正しい回転方向におびき寄せられる。万一間違ったゾンビはなぎ倒される。

 またキャプスタン室の入り口をサイクロン集塵機のように工夫して、望み通りの方向に回りやすい構造とすることができる。入り口通路とキャプスタン室の間は落とし格子を斜めに落とすことで区切り、ゾンビの逆流を防ぐ。

 最終的には天井にもうけた殺ゾンビ孔から不都合な動きをするゾンビを処分しなければならないことも多い。


発電室

 発電室には回転軸の回転エネルギーを発電機にふさわしい回転速度に変換する変速装置と発電機そのものを設置する。変速装置は入手できた発電機の仕様にあわせて設計する必要がある。ギア、スプロケットとチェーン、プーリとベルトなどを用いて、望みの回転速度を発揮させる。ゾンビの負荷も考慮してできるだけシンプルで抵抗の少ない構成にする必要がある。また、ウォームギアなどを用いて、垂直方向の回転軸を水平方向の回転軸に変更できれば、発電機の設置や整備がしやすくなる。

 機械部分は常に力を受けるため、継続的な整備が欠かせない。動作をスムースにし、摩擦を減らす潤滑油の入手は急務である。やむをえない場合はゾンビ油を使うこともできるが、部品の腐食や悪臭などの問題点も多い。

 実験的にゾンビ発電によって得られた電力は500~800ワットである。

 よってパソコンや冷蔵庫を動かしておくには十分な電力が得られるが、炊飯器や電子レンジなどの調理機器を動かす際は別の電化製品のスイッチを全て切らなくてはならないかもしれない。大容量のバッテリーがあると便利である。

 なお、本絶許が発電機を回して電気をえるためだけではなく、粉挽きや洗濯など、あらゆる仕事に使える回転動力を直接えるためにも有効であることは言うまでもない。


住居

 ゾンビに襲われる危険を予防し、安全に発電室へ出入りするため、住居から橋を渡しておくとよい。配線も橋を経由して住居に引き込む。

 発電室そのものを住居とすることは騒音が大きいため推奨できない。もしも発電室で暮らそうとすれば、機械音だけではなくゾンビの呻き声をも背景に起居することになる。

 ゾンビ発電完成後の生活について注意点を付記しておく。夜間、窓から電灯の明かりが漏れないように注意すること。生きている電気に招かれる生きた人間はゾンビとは別の危険性をもつ。

 しかし、ゾンビ発電所部品の入手のためにも、ある程度のコミュニティはあった方がよく、他者とのつきあいは二律背反の問題である。

 近づいてくる人間を都合良く選別し、ハーレムや逆ハーレムを築き上げる絶許については、これまでに無数の開示請求がおこなわれている。ところが、開示を拒否されるか、開示されても一般化できない方法ばかりである。くそうなぜだゆるさん。せっかくゾンビの時代が来たというのに!!!


最後に

 以上、ゾンビ発電の方法について簡単に説明したが、その際にゾンビへの気遣いを忘れてはならない。ゾンビのコンディションに気を使い、できるだけ負担の少ない設計をすることで、より長く効率的に電力をえることができる。

 明日もしれぬ現在の状況では、本絶許の著者も読者も明日にはゾンビになっているかもしれない。もしも自分がゾンビになった時も、気持ちよく発電できるゾンビ発電所を考えるべきである。

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