台湾熱病
三文士
第1話 プロローグ
うだる様な暑さ。湿気が身体にねっとりとからみつく。日本とは明らかに違う空気の中にいる。まるで呼吸のできる水中にいるようだ。九月であっても、ここは日本の夏よりずっと暑い。
排気ガスを含んだ空気にまぎれる独特な香辛料、
そこかしこで上がる
茹でたてのソレを醤油と黒酢、刻みニンニクを溶かしたタレで喰らうと思わず笑みがこぼれるほどに美味い。分厚くて食べ応えのある皮が、空腹を満たしてゆく。
道の反対側に目をやればタピオカミルクティーを売る店が四、五軒並んでしのぎを削っている。店員はみな若い男女で彼らは英語、日本語、韓国語を
常夏の気候のせいか、過剰な甘さのミルクティーでも不思議と美味く感じてしまう。
コンニャクではない本物のタピオカをグニグニと噛みながら狭い道路を忙しなく走り続ける黄色いタクシーの群を眺める。信号を渡る人々もまた同じようにただ一点を見つめ、先を急ぐ。かと思えば、朝から夕方まで同じ場所に寝転がる物乞いもいる。
街中見渡す限りの看板とネオン。だらしなく伸びた電線。そして漢字、漢字、また漢字。英語や時おり目にする日本語もあるが、漢字が全てを覆い尽くす。
街中がとにかく色彩豊かで、目が回りそうになってしまう。だがその混沌の中に、不思議な統一性を感じるのだ。
天を衝くほどの高層ビルの間をぬって雑草の様に生える古い建物たち。
古さと新しさ。混沌と統一。忙しなさと悠久。
私は何故か、またこの国に来ていた。
中華民国。
沖縄とほぼ同じ緯度に位置する常夏の島国。中国人とほぼ同じ顔をし、中国語を操り、しかしそれでいて全く異なる文化と思想を持ち合わせる台湾人。
世界でも随一の親日家であり、日本の文化を愛してくれる人々。彼らが日本を想ってくれる様に、私も含めた多くの日本人が台湾に魅せられている。
何故なのか。
我々の住む日本とほぼ変わらないくらいの経済レベルを有し、それでいて独自の文化路線を保持、かつ今だに進化し続けている。
呼吸しながら漢字を吐き、流暢な中国語を操るがしかし、頑なに自分たちは中国人ではないと主張する。
中華人民共和国ではない。中華民国である、と彼らは言う。
私はこの二年間で二度、台湾へ旅行した。一度目は
流石にもう飽きるかと思ったが、しかしその熱は帰国した今も冷めることなく私の中にあり続ける。
私は台湾という熱病に侵されているのだ。
たった三泊四日の旅である。二回とも三泊四日だ。その短い時間でさえ、私はあの国の魔力にやられ今も恋い焦がれ続けている。
今もし、私に自由が与えられたとしたら。三時間後には台湾松山空港に降り立っているだろう。
何故ここまでして彼の国は、私の心を掴んで離さないのだろうか。
美しき魔都、台湾。
僅か時間だったが私が触れたほんの少しの台湾の魅力を諸兄方にご紹介出来れば幸いである。
続く
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