第6話幻想世界の九份

さて、長々と管を巻いていたオッさんの旅行話もこの次でひとまず幕を下ろす。


何しろやりたい事がムラムラと出てきてしまいあらゆる事が手につかない状況だ。

その前に投稿の間隔がかなりあいてしまったことを許して欲しい。


前回、なんちゃってグルメ紀行にひと段落ついたところで今回は終盤にふさわしく、台湾でも随一の観光スポットである九份きゅうふんについて書きたい。




日本人が台湾に持つイメージの大半が九份だと言っていいくらい、この小さな山あいの町は我々の頭の中に色濃く残っている。何故か。とにかくメディアが煽るのだ。


「九份は例のジブリ映画の舞台のモデルになった場所です」と。


ま、確かに日本人を釣る謳い文句としてジブリは十分だ。実際、九份にはジブリの世界に憧れて毎日溢れるほどの日本人観光客が来ている。


何しろ人が多すぎて、気温が4度くらい上昇しているのではと思ってしまう。景色の前に人の多さでため息が出てしまうくらいだ。


では九份が嫌いなのか、と聞かれればもちろん「いいえ」と答える。むしろ大好きなのだ。前々から行きたいと思ってはいたが念願叶って訪れたのち、私はすっかり九份の虜になっていた。


私が台湾という熱病にかかったのも、九份での体験が大きな原因となっている。


九份という町は、とにかく人を惹きつける魅力に溢れている。


町全体が幻想的で、そしてノスタルジーに溢れている。


人が二人歩くのがやっとなほど狭い幅の割に、どこまでも続きそうなくらい長い階段。その途中キノコのごとく無数に生える古びた建物たち。


長い階段の途中にいくつかわき道があって、そこを左や右に進むと、商店街の様に様々な店が連なって存在している。


茶屋をはじめとして、土産物屋、食事処、ぬいぐるみやオカリナを売っている怪しげな店もあった。自称「例のジブリ映画に出ていた謎の食べ物」を売っている店などもあったが、全体的に値段は高くなんというか、全力で胡散臭い。


それがまた良いのだ。その胡散臭さが、九份のノスタルジーに拍車をかけている。


店を構える人々は活気に溢れているが観光地特有の下品な印象はあまりなく、どこか余裕のある笑みを浮かべている。「買わなくてもオーケー。見てるだけオーケー」そう言って微笑むお茶売りのオバさんからは嘘は感じない。品物も値段も胡散臭いのだが、人々はみな気の良い笑顔でいる。



あえて言うのもおこがましいが、九份の真骨頂はやはり夜にある。日が暮れてからの九份は別世界だ。


昼間は喧騒と蒸し暑さで溢れかえる観光地だが、夜になれば夕闇が涼しい風と幻想的な雰囲気を運んでくる。もちろん人は多い。特に日本人が。だがやはり夜の雰囲気は格別なのだ。


無数に着けられた小さな赤い提灯に灯がともり、町中を密かに照らし出す。まるでお祭りの縁日に来たような気分になり、思わず心が浮き立ってしまう。



到着して一時間。すっかり九份にやられてしまった。ザ・観光客ライフを満喫したい私はガイドブックでも大々的に取り上げられている有名な茶店に入ることにした。


阿妹茶酒館あめおちゃ」という名のその店は九份ではあまりに有名で、多くの日本人が訪れている茶店であった。ガイドもしきりにその店を薦める。


普段の旅モードな私なら絶対行かない店だが、今回はザ・観光客モード。躊躇せず足を運んだ。


店は古い外観とは裏腹に綺麗な内装と不思議な雰囲気を漂わせていて、まるで昔の香港映画のセットの様だった。


お茶を飲むセットはひとつしかなく、温かいのか冷たいのかを選べる様になっていた。


種類は多いが割とショボい味の菓子と、お代わり自由のお茶がついて一人500NT$。高いか安いか判断に困るところだが、店内のスタッフの数と内装の綺麗さから見るに儲かっていることは間違いない。


肝心のお茶だが、それなりの味だったと記憶している。


なんと言ってもここのウリは景色だ。二階に上がってラウンジ席に座れば、気分は台湾映画の世界。緑生い茂る断崖の中にポツポツと灯る赤い提灯。夜風に香る中国茶の芳香。これで胡弓の音でも流れてくれば、まさに桃源郷にでもいる気分になってしまう。


九份とは、まさに完璧なイメージの世界なのだ。


こんな夢の世界が現実にあるなんて、私は心底感動をおぼえた。


人が多かろうが観光地然としてようが関係ない。まさに抱いたイメージの世界、ファンタジーの世界がそこにあるのだ。もう一度、九份に行きたいと本気で思っている。


ちなみにツアーで連れてかれたバス停にある怪しげな中華料理は、台湾旅行中随一の不味さだった。その後、散策で食べる土産物の方がまだマシなのでここではあまり箸をつけないことをオススメする。


次回は最終回である。


再見

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