第8話 テロリスト

僕の夢はテロリスト。

お手製の爆弾を投げつけて、この世界を真っさらにする。

だってこんな世界、人を騙して裏切って、傷付けて命を奪う。

ただのどす黒い関係性しかないから。


何もかもなくしてしまえば、最初から作り上げられるはずなんだ。

無駄な感情を脱ぎ捨て、ただ心をゼロにして。

何もない心には、きっと全てが染み渡る。

そして全てが、純粋でキレイなものになるはずだ。


夢に向けて、僕は必死に学んでいる。

爆弾は、一朝一夕に作れるものではない。

ある程度の外部刺激に耐えられる強度、それにいざ本番となったときに必要な一撃必殺の破壊力。

実現のためには、学ぶことは数限りなくある。

そのために、数学も物理も化学もお手の物だ。

さらには、不審物を持っていると思われないための落ち着きも必要で。

日頃の僕は、決して声を荒げたりしない。

基本的には常に本を読み、知的な遊びを好む。

それでも、誰とも分け隔てなく付き合うし、軽いジョークも飛ばす。

しんどい子にはやさしく、いじめっ子には毅然とした態度で。

それでもつかず離れずの絶妙の距離感をもって、周囲を常に静観している。

物静かな秀才、きっと僕はそんな風に見えているんだろう。

それもすべて、計算通りだ。


そもそも、なぜ誰もがこの世界に執着するようになったのだろう。

こんな世の中、どうなろうと構わないだろうに。

誰もが挙って友情の美しさや優しい愛をこの世界に求める。

そんなものただの盲信だって、誰も気づいていない。

この世界があるからこそ、人は様々な感情に縛られて、身動きが取れなくなっているというのに。

世界に理想を押しつけてるのは誰?

この世界が自分たちの全てだと勘違いしているのは誰?

今ここにあるのはただ単に、これだけ。

バカみたいなテレビ、バカみたいな話題。

バカみたいな政治家、バカみたいな親。

そして、バカみたいな自分自身。


そう、僕が一番壊してしまいたいのは、僕自身なのかもしれない。



今ここに存在するいろんな物が、皆の目を曇らせる。

執着とか思い出とか、生ぬるいそういうの。

ソレに執着したからって、何かいいことあるのかな?

そんな思い出抱きしめて、おなかはいっぱいになるのかな?

なくすことも壊すこともできないなんて、それはきっとただの呪縛だ。

ここから一歩も動けないようにと、誰かが僕たちを縛り付ける。

そんなもの、僕がこの手で終わらせてあげる。

最初から作り上げる喜びを、この手で与えてあげるんだ。


決行日は、よく晴れた日と決めている。

こんなどうしようもない世界で、僕が唯一好きな青空。

澄み渡る青に、きっと炎の赤は映えるだろう。

ほんの少し残る白い雲が、炎の欠片に照らされて、薔薇色に染まる。

その光景を見られるのなら、僕はそのまま燃え尽きたっていい。

それだけが僕の、生きている意味というヤツだから。


僕の夢はテロリスト。

お手製の爆弾を投げ付けて、この世界を真っさらにする。

残るのはただ、青い空と青い地球。

なぜか右目から流れる涙を知らんぷりして、僕はその神聖な炎に灼かれるんだ。

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誰もが何かを失くしてる マフユフミ @winterday

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